コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

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ショパン前奏曲集作品28(22)この曲集の魅力

少なくとも一般的に人気のある作品ではない。

ショパンピアノ曲人気ランキングで上位に来ることはない。

たとえば子犬のワルツ、英雄ポロネーズ、黒鍵や革命のエチュード

あるいはソナタ3番やスケルツォ2番や3番、バラード1番などと較べて、長大であるのみならず華麗さに欠ける。

しかし自分にとってはショパンの最高傑作であり、どれか一つショパンの作品を選べと言われたら迷わず前奏曲集作品28を選ぶ。今なら。

なぜか。そこにショパンの真の叫び、素の思いが聴こえるからだ。

決して華々しくはないかもしれない。しかし通して聴くとそこに人間ショパンの感情の揺れ移り変わりをみることができる。しかも自由な形式で即興的に。

演奏時間約40分はピアノ曲の大曲の中にあってもかなりの規模であり、体力と集中力を要するという。

しかし完全にこの曲の世界を理解し没入すればあっという間の40分でもある。

そんな域に到達しなければならないけれども、自分には達することができる気がしている。

ショパン前奏曲集作品28(21)渡辺圭子氏によるショパン前奏曲集作品28の解説「譜を読む」

ピアノ誌「レッスンの友」1992年9月号から1994年6月号に20回にわたって長期連載された渡辺圭子氏によるショパン前奏曲集作品28の解説「譜を読む」は力作である。

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初回はショパン石川啄木の共通点の多さに着目し、24曲を日記の形で綴っているというユニークなアプローチ。各曲の曲想を理解するのに大いに助けになる。

2回以降も、各曲の曲中の変化のそれぞれにどのような意味があるのかを丁寧に筆者独自の発想とアプローチで解明していく。

これはそもそもピアニストなら誰でも取り組む曲に関して行なうべき作業であるから、決して筆者の書いたことを鵜呑みにするのではなく、自らの解釈(ただし自分勝手なものにならないように)を行なうにあたってアプローチとして参考にすべきものである。

連載の後半は1番から12番について詳しく演奏法も含め解説している。

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13番以降についてはこれより前の連載に部分的に触れられているが、13番以降の各曲についての研究は自らに課すことにしようと思う。

ショパン前奏曲集作品28⑳弟子から見たショパン

ショパンを演奏する上でとても有益な手がかりになる一冊がある。

これである。

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p115〜に、各曲の解釈ということで弟子たちの貴重な基準がある。

 

レリュード変イ長調作品28の17
ある日のこと、わたしがプレリュードの17番を弾いていると、デュボワ夫人が、ショパン自身もやはり最後のゼクエンツ(第65小節〜終り)にある低音のを強く打ち鳴らしながら、それ以外の部分はディミヌエンドで弾いていましたと、はっきりそう言ってくれた。ショパンはこの音には特別の意味をこめ、いつも同じように力を入れて弾いていたと言うのだ。そしてプレリュードの曲想も、もともと11時を打つお屋敷の古い鐘の音から来たものだと説明してくれたそうだ。デュボワ夫人はこの連続したラ♭を少しずつ弱めたりしてはいけませんとわたしに教えてくれた。ーところがわたしはディミヌエンドを弾き続ける右手の動きに合わせようとわざと弱めて弾いていたのである。が、ディミヌエンドで鳴ることなどないのだから、低音はいつも同じ強さでー弱めたりしないでー弾かなければならない, とショパンは口ぐせのように言っていたそうだ。だからこの低音は鐘のように響くことになる。
デュボワ/パデレフスキ(154)

 

プレリュードハ短調作品28の20
わたしが弾いたのは, 日頃から「お祈り」と呼んでいたプレリュードハ短調でした。 (原典版では) 2巻目の第20番にある曲です(中略)。(ショパンの指にかかると)この曲は地上的なものを超えて, この世ならぬ調べを奏で、はるか永遠の彼方への憧れを表現するのでした。
スターリング/ヴロブレフスカ=シュトラウス、LSJ (110)

 

ショパン前奏曲集作品28⑲旋法性の研究

ショパン前奏曲集作品28に関する文献を引き続き検索していたところ、素晴らしい研究論文に出会った。

昨年度の日大芸術学部博士請求論文、「フレデリク・フランチシェク・ショパンの《24の前奏曲》作品28にみられる旋法への傾斜」と題された論文である。

先日11/7に投降した「ショパン前奏曲集作品28⑯和声分析」において中山先生が12番の版による記譜の違いが調性によるものか旋法性によるものかとの論点を提示されていたが、この論文は旋法性に着目し、ショパンの他の作品も踏まえた上で考察を加えたものである。

この論文によると、ショパン作品の研究は数あれど、ショパンの旋法性について深く研究したものはないらしく、その意味で着眼点はユニークであり研究の独自性として意義深いのみならず、ショパン作品を演奏する上でもこの旋法性の理解はとても重要であることが示されている。

論文の第4章で旋法性について「ドリア旋法的な旋律」を第1節で2番、24番を、第2節では「ふりギア旋法的な旋律」として12番を、第3節では「リディア旋法的な旋律」として22番を、第4節では「エオリア旋法的な旋律」として12番を分析し、ここで例の中山先生が提起した個所を、導音処理されていない第7音がエオリアを特徴づける音と洞察を加えている。

さらに第5節では五音音階的な旋律として10番を分析している。

第4章第6節のまとめではさらに、8番の最後から2小節目の和声進行が旋法的であることも指摘している。

 

これら例に示される箇所について、それが個々の曲を性格づける重要なものであることを意識して演奏するとしないとでは大きな差が出てくる。

ショパン前奏曲集作品28⑱アゴーギク

研究は続く。

最も嫌われる演奏は、「自分勝手」に聴こえる演奏である。自分勝手に聴こえる理由はいくつかあるが、テンポの揺らし方に説得力がない、すなわちやり過ぎたり、遅くすべきところで遅くしない、速くすべきところで速くしない、ことはかなりマイナスになる。

ショパンの楽曲を美しく演奏するには、ルバートやアゴーギクが欠かせないが、如何なる根拠をもってどの程度のルバートやアゴーギクとすればよいかは自分の「感覚」に頼ってはなかなか難しく、自分勝手な演奏になりかねない。

そんな場合、たとえば尚美学園大学芸術研究第27号(2017年)に掲載された前田拓郎氏の論文「F.ショパンのピアノ演奏におけるアゴーギクの効果. -24の前奏曲 作品28を例として-」はアナリーゼの大いなる助けとなる。

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 アゴーギク(独:Agogik)は、厳格なテンポによらず、速さを微妙に変化させることによって、音楽に表情を与えること(緩急法)、とこの論文に定義されている。

アゴーギクは楽譜上に明示されていないので、演奏者の解釈に頼ることになるので、その解釈が正しいものであるか否かが重要である。

この論文は、楽譜からいかにアゴーギクを正しく解釈するかのヒントを与えてくれており、具体的に1番、6番、11番、13番、14番、15番、16番、22番、24番につき譜例付きで解説してくれている。

結論としての解説をまとめると以下のとおり:

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ショパン前奏曲集作品28⑰各曲の難易度

祝!1,000投稿!

 

今回は避けて通れない個々の曲の難易度について書いてみる。

個別に断片的にどの曲が難しい難しくないという意見はよく聞くが、全曲の難易度を示したものはHenleによるものぐらいであろう。

Henle社によると、各曲の難易度は以下のとおりである:

この曲のサイトから詳細情報をみると各曲の難易度が1~9の9段階で示されている:

Details / G. Henle Verlag

1~3が初級(易しい、easy)、4~6が中級(中程度、medium)、7~9が上級(difficult、難しい)である。説明はここ: Levels of difficulty (piano) / G. Henle Verlag

 

4 (intermediate): 4,6,7,20

5 (intermediate);  2,9,15

6 (intermediate); 1,13,21,23

7 (advanced): 3,5,10,11,14,17,18,19,22

8 (advanced): 8,12,16

9 (advanced); 9

 

うーむという唸ってしまう評価である。まぁこういうものは必ず異論は出るものだが、それにしても19番が7というのは理解に苦しむ部分がなきにしもあらず。

 

ちなみに9という評価が与えられている曲には以下のものがある:

Albeniz: Triana, Lavapies, La Vega 

J.S.Bach: Goldberg Variations

Balakirev: Islamey

Beethoven: Diabelli Variations

Beethoven: Piano Sonatas No. 21 (Waldstein), No. 23 (Appassionata), No. 28, No. 32

Brahms: Handel Variations and Fugue, Paganini Variations, Sonata No. 3

Chopin : Etudes op. 10-1, op. 25-6,10,11, Andante spianato and Grande Polonaise brillante E flat major op. 22, Ballade f minor op. 52, Piano Sonatas op. 35 and op. 58

Debussy : Etudes pour les degres chromatiques, pour les arpeges composes

Liszt: Après une Lecture de Dante - Fantasia quasi Sonata, Hungarian Rhapsodies no. 6 and no. 12, Mephisto Waltz no. 1, Overture to "Tannhäuser", Concert Paraphrase for Piano (Richard Wagner), Piano Sonata b minor, Rhapsody espagnole, Rigoletto - Concert Paraphrase

Rachmaninoff; Étude-Tableau e flat minor op. 39 no. 5, Piano Sonata no. 2 b flat minor op. 36, Versions 1913 and 1931、Prelude op. 23 no. 9, Prelude op. 32, nos. 4,6,13

Ravel: Alborada del gracioso

Reger: Variations and Fugue on a Theme by J. S. Bach op. 81

Schubert: Fantasy C major op. 15 D 760

Schumann: Fantasy, Piano Sonata f sharp minor op. 11, Symphonic Etudes op. 13, Versions 1837 and 1852, Toccata op. 7, Paganini-studies op. 10 nos. 1,3,4,5

Scriabin: Piano Sonatas no. 5 – 10, Vers la flamme

 

これもいくつかウームと思うものはあるものの、まただいたいそんなものであろう。

 

バッハの平均律1巻2巻全曲(プレリュードとフーガを分けて)96曲について、ピアノ仲間(プロも含む)で難易度表を作って較べたことがある(HenleやBartokの難易度表も参考に)が、この時もばらつきはあった。

そもそも楽曲の難易度を如何なる基準をもって評価するかにもよるし、主観が入る余地はあるので難易度評価がばらつくのは不可避であろう。

また、楽曲そのものの絶対的な難易度が存在したとしても、弾く人の技術に差があるし、得意不得意もある故、主観を反映する難易度がばらつくのはむしろ当然ともいえよう。

これは以前師に言われたことだが、ショパンエチュード10-2や25-6は向き不向きがある(手の形も含め)ため、子供でも楽に弾けてしまう場合もあるそうだ。

難易度表というものはこのような前提で考えておくのが良いだろう。

 

ショパン前奏曲集作品28⑯和声分析

熊本大学の中山孝史先生によるショパン全作品の和声分析は労作であり、ショパン作品のアナリーゼの際には必ず拝読させていただいているが、プレリュードについても当然参考にする。

論文のリンクはこちら:

https://ci.nii.ac.jp/els/contents110000954654.pdf?id=ART0001122352

この分析を理解するには、機能和声を理解しておく必要はあるが、ショパンの天才的な和声進行を理論的に把握するには中山先生の分析はとても助けになる。

もちろん自分で分析する方が勉強にはなるが、既に先人が分析されているものを参考にすることは自分の理解を確認する上で有用である。

 

ところで中山先生はプレリュードに関しては12番の特定の音がヘンレ原典版とパデレフスキ版で異なる点につき、自筆譜も踏まえて分析しており、様式上の問題も考慮しているが結論として12番の30小節目の右手の最後のオクターブはパデレフスキ版のDisではなくヘンレ版のDが自然であるとしている。

 

このあと26曲(作品45と遺作を含め)の和声分析を進めた後、結びとして興味深い仮説を展開されている。

 

「以上でプレリュードの和声分析を終わるが,和声的に見ると以下の点にその特長を見る事ができる。まず第1に旋法性の広い意味での多用,それは和声1個1個だけの引用のみならず、転調に際しても応用している点である。プレリュード集op.28は1831年~39年?にかけて作曲され、前奏曲嬰ハ短調op.45は1841年に作曲され、遺作の変イ長調前奏曲1834年に作曲され、いずれもショパンの盛期の作にあたる。この旋法性はショパンのどこかの時代に集中しているのか、又は彼の生涯を通じて見る事ができるのか,、この事については全作品を分析した結果、ジャンルに関して、作曲時期に関しての詳細な分析を試みるつもりである。そうする事によってこのプレリュードの彼の作品の中に於ける位置づけができるであろう。又、もう1つの点は長びかされた倚音、係留音の解決の問題である.。これはR.ワーグナーの例の“トリスタンの和音”にも共通している事で調性崩壊の目ばえとも言えるのではないか。勿論ショパンは無調の音楽を作曲している訳ではないが、機能和声の崩壊の歴史上の一翼を担っていると言えるかも知れない.。」

 

ショパン前奏曲集の魅力の本質にもう一歩迫った気がする。

ショパン前奏曲集作品28⑮楽曲解説発見

楽曲解説のまた別のバージョンを発見したのでここに引用する。

草間眞知子氏による、「ショパン作曲《24のプレリュード 作品28》の音楽的表象の図式的表現の試み」(広島大学教育学部紀要第二部第46号、1997年)という論文からのものである。

全曲について縦軸にエネルギーレベル、横軸に時間軸(小節)をとって表現した試みはなかなか面白い。音楽のピークと方向性を理解して演奏することはきわめて重要であり、それを可視化するという試みである。

 

《24のプレリュード作品28》図式的表現への補足

図式的表現に補足して、各曲に対する筆者の心象及び演奏上の留意点を以下に記す:

第1番ハ長調 Agitato 2/8

ー期待- 右手が二声になっているので親指に対し小指が呼応するように弾く。[2-9]小節(以下、小節を省略)以降の2拍目Cの長さに気をつけ、ペダルの扱い方に充分注意すること。

第2番イ短調Lento 4/4

カタコンベショパンはレッスンの際、メトロノームをいつもピアノの上に置いていた。そして、左手の伴奏は正確なテンポを保ち、歌の方はテンポを変えながら伸び伸び弾きなさいと教えていた。左手のテンポをくずさないよう、和音の変化する所を意識すること。

第3番 ト長調 Vivace 4/4

-躍動- ショパンは中学生の頃、首席の一人として勉強もよく出来たが、人の物まねや漫画を書くことも上手な悪戯っ子でもあった。活き活きと軽く、おどけた感じ。

第4番ホ短調 Largo 2/2

-嘆き- 4分音符から付点2分音符へはポルタメントをかける。左手の半音階の動きを充分意識する。

第5番 二長調 Molto allegro 3/8

-おしゃべり- 総ての音の動きがはっきりわかるように弾く。テンポは速すぎない。特に3拍目の音の動きに注意するとよい。右手の8分音符はよく響かせるようにする。

第6番 口短調 Lento assai 3/ 4

-郷愁- 左手のメロディーを朗々と歌う。他の楽器を連想するならば、チェロ。M6 の3拍目からM8の2拍目までは、右手のメロディーが主となる。

第7番 イ長調 Andantino 3/4

-恋人との幸せなひととき- デルフィーネ·ポトツカの楽譜帳に書きとめられている。マズルカ風。

第8番 嬰ヘ短調 Molto Agitato 4/4

-絶望 焦燥 諦観- 右手の主たる旋律は親指にあるが、細かい音符も副のメロディーとする。息切れしないよう、流れの方向性をはっきりと表現する。M27~34は二小節毎にニュアンスを変える。

第9番 ホ長調 Largo 4/4

ー郷愁ー ショパンの自筆譜を見ると右手2拍目の上声、中声の最後の音は重なって書かれている。弾き方は、同時に弾くか、ずらして弾くか、の二通り考えられる。ずらして弾く場合は16分音符と32分音符の差をはっきりさせて弾くべきである。

第10番 嬰ハ短調 Molto allegro 3/4

-悪戯とユーモア-16分音符の動きは軽快に、左手のアルペジオはひっかけるように鋭く軽くして、テンポをしっかりとる。M4の左手の16分休符を充分意識して弾く。

第11番 ロ長調 Vivace 6/8

-憧憬- legatoのため、テンポはあまり速くしない。右手のメロディーの感じ方について、M3-4,7-8,11-13,15-16,19-20は1拍目と6拍目、M5,9-10,17は1拍目と3拍目と5柏目、M6,18,22-24は6個(M23は3個)の8分音符を意識する。

第12番 嬰ト短調 Presto 3/4

-戦場に赴く騎士- 難曲である。精神的緊張の持続、突き進む動き、それに伴う昂揚感が必要とされる。

第13番 嬰へ長調 Lento 6/4

-追憶- M21から23まではソプラノの動きを主として充分響かせ、下部三声のいずれかを副のメロディーとして呼応させる。

第14番変ホ短調Allegro

-嵐-pesanteのため、テンポはあまり速くしない。強弱記号通りに、ダイナミックをはっきりつける。M15~18は 6拍子に感じてメロディーを響かせる。

第15番 変二短調 Sostenuto 4/4

-雨だれ- 雨だれの名称で有名な曲。メロディーをたっぷり歌う。左手の動きのなかで、隠されたメロディーを見つけること。伴奏における8分音符は、タッチを揃え、動きが不安定にならないように弾く。

第16番 変ロ短調 Presto con fuoco 2/ 2

-激情- 難曲である。右手の速い動きは、単なる弾きとばしにならないで、何を言いたいのかがはっきりわかるように表現する。左手で、躍動感をはっきり表現する。一貫して、精神的緊張感を強く持って演奏する。

第17番 変イ長調 Allegretto 6/8

-幸福- メロディーをたっぷり歌う。スフォルツァンドのついたM65)からM90におけるAsは、教会の鐘の音のように響きわたらせる。その響きのベールに包まれた一層の幸福感を表現する

第18番 へ短調 Molto allegro 4/ 4

-怒り- 怒りを表出するように。テンポは、幾分自由にとる。最後の二つの和音を決然と弾く。その前の休止は強い緊張感を持つ。

第19番 変ホ長調 Vivace 3/4

-天馬の飛翔- 軽妙洒脱に弾く。調の変化をよく感じとる。半音階の動きは、決して重くならず、しなやかに。M29~32とM65~68は、2拍子に感じてよい。最後の二つの和音で引き締める。

第20番ハ短調 Largo 4/4

-葬送ㄧ 厳粛に、荘重なテンポで進んで行く。葬列が、目の前からだんだん遠ざかる。第三小節4拍目はEで弾かれるのを聴くことがあるが、ショパンが亡くなる前Esにしたとの説をとり、現在の版ではほとんどEsになっている。

第21番 変ロ長調Cantabile 3/ 4

-憂愁-左手の動きは右手のメロディーを補足する働きをする。長調ではあるが、何かもの悲しい。

第22番 ト短調Molto agitato 6/8

-絶望- 主として左手で音楽を構築して行く。右手は左手のメロディーをしっかり受けて弾く。

第23番 へ長調Moderato 4/ 4

-子供の頃の楽しい思い出- 右手は軽やかに流麗に、左手は諧謔的に弾く。 Esのアクセントはよく響かせる。M21のEsは一抹の不安を与える。

第24番 ニ短調 Allegro appassionata 6/8

ー激情- 最後を飾るにふさわしい曲である。祖国ポーランドが他国に蹂躙されたことに対する激しい怒り、絶望、やるせなさを表現する、細かい音符の動きに対する左手の動きについて、6拍目だけに時間をとらないよう、動きの配分を考えること、精神的な力の蓄積、緊張感を要求される。ショパンはこの24番を曲集の終曲としたいがために、曲の配置を五度圏に考えたのではなかろうか。

 

ショパン前奏曲集作品28⑭演奏上注意するポイント

今回は、実際に良い演奏にすべく、これまで自分が受けたレッスンで指摘されたポイントや重要な注意事項挙げてみる。

 

全曲に共通するのはポリフォニーである。

他のショパンの曲もそうだが、バッハへのオマージュであれば尚更である。可能な限り立体感を、遠近感を持たせること。

 

まずは第1番。この曲は2/8拍子だが、基本三連符が続いているが、後半でストレッタ的に5連符になる。ここは音価に注意する。

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次に第3番。左手はあくまで軽やかに。難しいのはソレソラシラソミのソラの部分が手の都合で強くなったり重くなったりしないようにすること。手首の柔らかさが重要。

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次に第5番。複数のラインが記譜上明確に示されているので大切に。

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次に第8番。主旋律は右手の内声であることは言うまでもないが、ここだけ取り出してもきちんと歌になっているように。装飾音に引っ張られないよう注意。

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次に第13番。中間部では左手のラインを出すように。

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次に第17番。これも左手の半音階のラインを大切に。半音階の掛け合いは何回か出てくる。

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そして第19番。ショパンは記譜上同じのものでも繰り返す場合決して同じように弾いてはならない。2回目は右手の内声のラインを意識してen dehorsにすると美しい。

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ショパン前奏曲集作品28⑬

今回は音源について。

ショパン前奏曲集作品28は、コルトーに始まり数多く(正確に何人かはわからないのだけど)のピアニストが録音を残している。

このサイトにはなんと32名のピアニストの録音の評価が記述されている力作である。自分より遥かにこの曲に入れ込んでいる方もいらっしゃる。まだまだ勉強が足りない。

ショパン 前奏曲集録音比較

 

もっとも、自分はすっかりCDを買う聴くということをしなくなってしまった。

Youtubeが充実しているし、Apple Musicの月額会員でもあるので、あまり困っていないというのが現状である。

・・・というより、殊にこの曲に関しては24曲通して1曲なので、ライブ盤でない限りCDには興味がない。

ただしソコロフは別だ。これはCDを持っている。Apple Musicにもある。

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ショパン国際ピアノコンクールセミファイナルで前奏曲集作品28の選択が許されるようになってから、コンクールでいくつか名演を聴いている。

また、2009年のクライバーン優勝者(辻井君と並び)であるHaochen Zhengの演奏は非の打ち所がなかったと記憶している(音源がYoutubeでは見当たらないが)。

最近の演奏では、前回(2015年)ショパンコンクールで4位入賞(当時17歳)、先日のリーズ国際で優勝したEric Luの演奏が出色である。

www.youtube.com

 

それと、なんといっても元祖というべきコルトー

www.youtube.com