コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

オーケストレーター(2)働き方を変えるメガトレンド

前回言及した「オーケストレーター」という新たな働き方生き方が何かをご説明するにあたり、まずは、なぜ今、オーケストレーターなのか、その前提となる事業環境の変化について述べます。
ビジネスパーソンの働き方・生き方を考えるにあたり着目すべき事業環境の変化は大きく5点あります。

①人口動態の変化、

グローバル化

③プロジェクト化の進行、

④価値観・嗜好・ニーズの多様化、そして、

人工知能の発達です。

 ①まず、人口動態の変化です。少子高齢化により高齢者人口の若年人口に対する比率が急上昇し、モノ不足の市場ニーズを充たすべく次々に新製品が開発され、自動化が進んだ大量生産とそれに適した分業を可能にした従来型の組織ピラミッドの前提は既に崩れています。モノ不足が解消され、多くの商品やサービスがコモディティ化を逃れないことによって経済の成熟化が進行するなど、経済および事業の成長の前提が、量より質、精神的充足へのシフトといった形で根本的に変わってきています。それに伴い、サラリーマンではなくプロフェッショナル、ワーカーはナレッジ・ワーカーとして知的付加価値と生産性を求められ、雇用形態も多様化、さらに雇用する側にとっては世代間の意識の差(団塊、バブル世代 vs ゆとり、等)が人材育成上の課題として浮上するなど、組織も個人も新たな働き方・生き方の模索を求められていますが、オープン、フラット、自律分散協調、プロフェッショナル、ナレッジ・ワーカー等従前のコンセプトは、それぞれ必要な一面を捉えてはいるものの、ではビジネスの世界における組織・個人としてのスタイルをどう確立するかには決定打がない状況です。いや、むしろ容易に認識しやすい概念ではないのかもしれません。

 ②次に、グローバル化です。中国やインドといった新興国の急速な経済成長に伴い市場が拡大する一方で、生産のオフショアリングが進み(揺り戻しも起こっていますが)、自由貿易圏の拡大で関税・非関税障壁が緩和されることや、グローバル企業が先鞭をつけたビジネスのボーダーレス化による多くの業種で競合は激化する一方でとどまる気配はありません。日本企業として所謂「グローバルな組織」の構築、「グローバル人材」の育成に頭を悩ませていない企業はむしろ少数派である現在において、では英語力を身に着けさせ海外留学させればいいのか、あるいは現地駐在を経験させればいいのかといえばそれらは必要十分条件には程遠く、外資のグローバル企業に較べて組織運営も人材育成も大きく後れをとっているのが現状です。
 筆者も外資系企業の事業部門で管理職を務めた経験から、またコンサルタントとして複数のクライアント企業の世界各国(欧、米、中国、東南アジア、中東)のオペレーションを目の当たりにしてきて、日本にいて考えるよりはるかに速くグローバル化、より適切にはボーダーレス化が進行していると実感していますし、もはや「グローバル化」という必要すらないほど、当たり前になっている世界が広がっています。
 このような状況においては、もはや従来の、国籍も教育水準も価値観も文化も同じ集団でのリーダーシップやマネジメントのアプローチはまったく通用しないし、コミュニケーションも特に日本人には大きな障害になることがしばしばあります。しかし、筆者の経験に照らしても、日本で生まれ日本で育ち日本で教育を受け日本で職務の大半を行なってきた日本人が、いわゆる「グローバル人材」になることは決して不可能なことでも、また限られた人だけの特権でもないどころか、ひとくちにグローバル人材といっても多様な働き方・生き方があります。その重要な要件が、私が提言するオーケストレーターです。

 ③次に、プロジェクト化の進行です。ビジネスはどんどんプロジェクト化していっていると言って良いとおもいます。経営はプロジェクトとオペレーションの2種類の仕事から構成されるという考え方があります。オペレーションは恒常的に進める仕事でしばしば期限が特定されないもの(もちろん一つ一つのタスクには期限がありますが、総体としては期限はない)ものであるのに対し、プロジェクトは何か解決すべき問題が発生した際に、半年とか1年といった期限を設けて、オペレーションとは別に行われるものです。
 変化がゆるやかな事業環境においては、オペレーションが企業活動の主たる部分を占めるでしょう。機能別に分業された現代の組織はそもそも各機能のオペレーションの遂行を前提に設計・構築されたものであり、それが最も効率的であるからです。
ところが、現代のように市場のグローバル化が進展し、技術革新による消費の多様化やバリューチェーンの再構築が進むと、従来の組織では対応できない課題が次々に発生し、企業は存続のために、従前のオペレーションを遂行しつつも、それら課題の解決のためにプロジェクトを立ち上げる必要が増えてくることになります。
プロジェクトとは、ある一つの目的を達成するための有期限のチーム活動です。新規事業開発、業務改善、システム開発M&Aなどいずれも明確な目的と期限があり、ほとんどの場合複数のメンバーで構成されるチームが一丸となって目的達成のためにそれぞれの役割を果たして活動するプロジェクトです。ビジネスがプロジェクト化していく要因は、そもそも現代の分業型組織が、定常的な事業環境、すなわち市場や競合の変化が少ない、もしくは変化のスピードが低い状況において、営業、マーケティング、製品開発、生産、といった機能別の部門の形で分業することが最適であることを前提にしています。ところが、既に皆が実際に直面しているように、ビジネスのバリューチェーン上の機能が、かつての流れ作業のようにスムーズに上流から下流から流れることはむしろ稀になってきています。生産を考えた製品開発(Design for Manufacturing)、最終ユーザーの使い勝手を考えた設計(Consumer-oriented design)、といった下流を見据えた上流の様々なコンセプトが唱えられたことに象徴されるように、バリューチェーン上の逆の視点と統合が求められてきていますが、製品やサービスのライフサイクルが短縮され、かつ各機能の専門性も高まっていく中、ますます従来の機能別組織の限界が露呈し、それを補う思想と活動(部門横断的な活動)が求められてきていますし、それら活動は必然的にルーチンでは難しく、プロジェクト化して対応するか、根本的に組織を見直す必要が出てきます。いずれにしても重要なのは全体を一つの目的に沿って統合する、その上で様々な専門性を取り入れまとめあげる、オーケストレーション能力が求められます。

 ④次に、価値観・嗜好・ニーズの多様化です。前述の製品やサービスのライフサイクル短縮とも大いに関連しますが、ウェブの浸透により消費者が得られる情報の質と量が高まり、企業側から提供される製品やサービスの種類が増え、並行してウェブや物流の進化により製品やサービスへのアクセスが容易になった結果として市場のグローバル化が進行し、潜在的に多様であった個人の価値観・嗜好・ニーズが充たされるようになっていきます。Amazonのビジネスモデルや、これが象徴するロングテール化というものが、市場と産業の構造を、従来の供給者主導、大量生産から、消費者主導、多品種少量へと大きく変えてきています。インターネットやモバイルの普及により、供給側と需要側の間の情報の非対称性が変わるのみならず、需要側である消費者の時間の使い方も変化し、15年前に言われたbrick and mortarがclick and mortarにシフトすると言われたことが現実に形をとってきています。このような潮流の中、新たな働き方や新たな形態の組織が生まれてきていますが、社会の大半は依然として伝統的な組織で旧来の働き方を踏襲しており、それによって様々な歪が生まれてきています。何か大きな変化が起きる際には、それを推進する原動力となるような力が必要ですが、価値観や消費の変化と、働き方の変化の間にギャップがあることが原動力です。

 ⑤最後に、ICTやロボットなどテクノロジーの進歩、特に人工知能の発達です。前述の各要因のドライバーの一つICTの進歩については、ハードウェアとソフトウェアの進化、インターネットと携帯電話の普及、政治・社会・産業・生活におけるデジタル化の進展が並行して進み、従来の我々の消費・娯楽や働き方を含めライフスタイルが変わり、新たな産業やビジネスモデルが生まれ、その中でイノベーションが起き、といった形で世界に大きな影響を与え続けています。長期的な将来予測について、現時点で一つの大きな論点になっているのが、技術的特異点あるいはこれに基づく2045年問題と言われているものです。思えば人類は石器を手にした時も、蒸気機関を手にした時も、自らの世界の可能性を拡げてきました。ICTやロボットを活用し、人工知能潜在的な脅威をどう乗り越え次なるステージに移行できるかを、いままさに問われている転換点に来ていると筆者は考えます。

 

これだけ我々の多くが働き方生き方を変えるべき局面にあり変わらなければならない抗いがたい大きな力が複数作用する今後、そうは言っても必ずしも特殊な才能や能力を持つ訳ではない者がどうすればいいのか。それは天才や成功した起業家からは学べるとは限りませんし、幸運に頼るのもリスキーです。

私が提言するオーケストレーターはこの様な前提で考えています。