コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

オーケストレーター(3)オーケストレーターの定義

オーケストレーター(orchestrator)という単語は、適訳がないので説明的になりますが、orchestrate(結集する、統合する、組織化する、画策する、統制する等多義的ではあるがいずれもぴったりきません)する人、すなわち「ものごとをまとめあげる人」です。
この後詳しく述べますが、ぼくが定義するオーケストレーターとは、『一つの目的を達成すべく、皆のアイデアや熱意を引き出し、従来のやり方に過度に拘泥することなく、個人としてもチームとしても最大のパフォーマンスを発揮させるような人であり組織のあり方であり、常に発展途上人としてこのあり方を磨き続けること』、を意味します。
これまで、オーケストレーターという言葉は、ビジネスの文脈でほとんど用いられていないとおもいます。オーケストレーターという用語をビジネスの文脈で用いている例としてぼくの知る限りでのグロービスの定義によるますと:「バリューチェーン全体のプロデューサーになるという方向性。独立したプレイヤーが連なる新たなバリューチェーンを構築・運営し、全体の価値を高める方法。たとえばパソコンダイレクト販売のデルは、従来の在庫販売型をやめ、受注生産を効率的に行うシステムをとった。部品メーカーの組織化や業務のアウトソーシングに長けた企業の模範例といえます。日本では、かつてミスミが金型部品の商社として、顧客の購買代理店としての独自のコンセプトを打ち出しました。営業担当者を抱えず、生産もすべて協力部品メーカーに任せている点がユニークです。ユニクロを展開するファーストリテイリングや家具・インテリアのニトリも、独自性の強いSPAの仕組みを築くことで高い成長性、収益性を誇っている。オーケストレーターを志向する場合、新たなビジネスモデル全体をスムーズに運営する仕組みをつくり上げることが鍵となる。」としていますが、使う言葉は違うものの、「バリューチェーン全体のプロデューサー」としてはほぼ一致しています。ただし大きく異なるのは、ミスミやニトリのビジネスモデルがオーケストレーター的な何か、ということではなく、ビジネスモデルに限らず、プロジェクトにおいても、「独立したプレイヤーが連なる」ではなく、必要な多様な専門性を発揮・統合する、まとめあげる役割を担う人および組織、と捉え直した上で、そのような人と組織とはどのような生態でどう創るか、ということまで踏み込みます。
「まとめあげる」とは、単に皆の意見の最大公約数をとるとか、強引に引っ張っていくことではなく、一つの目的を達成すべく、皆のアイデアや熱意を引き出し、従来のやり方に過度に拘泥することなく、個人としてもチームとしても最大のパフォーマンスを発揮させることとぼくは考えています。
オーケストラに指揮者は不要、と主張する人は少なくありません。オーケストラ、それも一流のオーケストラには、バイオリンなど弦楽器、クラリネットオーボエやホルンなど管楽器、打楽器いずれのパートも一流の奏者から構成されており、バイオリンパートにはコンサートマスターという存在がおり、確かに、楽曲の規模や難度にもよりますが、指揮者はいなくともそれなりの演奏が可能である場合があることは確かです。一流のオーケストラの場合、個々の奏者のアンサンブル(複数の演奏者で合奏する)能力がそもそも極めて高いですし、二流、三流の指揮者がいるとかえって邪魔(もっとも一流のオーケストラは一流の指揮者しか呼ばれませんが)、足を引っ張る、ということは大いにあるでしょう。もう一つ、特にオーケストラの楽団員側が指揮者不要という場合は、専制君主のような(と認識する)指揮者との経験がトラウマになっているということもあるかもしれません。過度に一般化してはいけませんが、音楽家の方々はとてもプライドが高い方が多いので、人に「指図」されることは基本的に面白くないのです。
ぼくはそれでもやはり指揮者は必要不可欠の存在だと思っています。一流の指揮者はしかし、演奏する楽曲の「世界観」を持っています。楽譜を深く読み込み、作曲者の意図を理解し、それぞれの楽節で演奏するパートがどういう表情で演奏すべきか、全体としての調和(あるいは時として相剋)を保ちつつ、どのように音楽の変化を感動的に演出するか、自身のイマジネーションとオーケストラ団員の個性や実力を如何に引き出すか、しかもその演奏は時間芸術であるが故に、二つとない作品を、聴衆と共に創り出す存在なのです。