コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

人工知能とピアノ演奏

電子ピアノ(デジタルピアノ)には必ず名曲ライブラリーがついてきて、番号選ぶだけで電子ピアノが弾いてくれるというのがあるが、これがありがたいと思っているユーザーはどれぐらいいるのだろうと思った。

そもそも自分が弾きたいからピアノを買うのであって、内部記憶媒体に記憶済の曲を勝手に弾いてくれてもCDを聴くのと何が違うのであろうか・・・それならCDプレイヤー内蔵にすればいいのでは・・・

・・・というグチというか素朴な疑問というかはさておき、昨今騒がれているシンギュラリティ云々の主役である人工知能(AI)はピアニストにどう関係あるのか、いや我々にとって役に立つものにはなり得ないのか。

ピアニストにとって、プロもアマも関係なくほとんど唯一にして最大の問題は自分にとって「新しい」曲を如何に短時間に「ものにする」ことであろう。難曲大曲ともなれば1曲に何十時間、いや何百時間も費やしてアナリーゼし練習しレッスンを受け本番を何度もこなし・・・というプロセスを経なければ「ものにする」ことはできない。「ものにする」というのは、聴衆にとって「いい演奏だ!」と思ってもらえる水準の演奏ができるようになること(そしてその水準を維持・向上すること)と定義する。

何事(ビジネスでもスポーツでも芸術でも一般化できると信じていますが・・・)も達成する近道は完成したイメージを強くもつことである(ただ音楽に関して「完成」という状況は存在しない、というのはまた別の論点とし、ここではある水準を定めた場合の状況を指すことにする。

完成したイメージとはどんな感じだろうか。譜読みができ、脳内に音楽が、世界観が、響きが、運動と統合した形で形成されていることとそれを再現できること、と仮にしておく(音楽は時間芸術だから「再現」というのも厳密には正しくないがこれもとりあえず別の論点とすることにする)。平たく言い換えれば、楽曲に込めた作曲家の意図や語法が正しい解釈され(あまり平たくないかも・・)、豊かで緻密な世界観・構成が自分のものとして(誰かの演奏の模写ではなく)きちんと描かれており、それが身体(指のみならず手首、腕、肩)の運動と呼吸とが一切の分離・乖離・矛盾がなく完全に統合された状態になっていること(やはり堅い表現になってしまったか・・)ということかとおもう。

 従前の考え方だと、そもそもピアノが下手な人は、この完成したイメージを形成する要素のどれか或いはすべてが不十分かできていないのだろうということかと。だとすると、ピアノが上達するということは、その個人と楽曲に即して、どの要素が不足しているのか、補うには何を行なえばいいのかを明らかにし、それを教師による指導と練習のアプローチに反映させることができれば、上達に要する時間は数倍、いや数十倍のオーダーで短縮することができるかもしれない。

コンサートピアニスト、コンクールを受ける方々、およびかなりハイレベルなアマチュアの方々は同時に複数の曲から成るレパートリーを手掛けているが、日々の練習においてどの曲でどういう練習をすれば良いのか、またはじめて手掛ける曲はそのピアニストの能力に応じてどういう順番で何をすれば最短で「仕上げる」ことができるかも解明できることになるだろう。

あくまでも(妄想に近い)仮説ではあるが、本当にこんなことが可能だとすればと思うとワクワクする。しかしこれを可能にするための最大の課題は、その時点でのそのピアニストの実力を「診断」あるいは「測定」「見える化」することだと思う。従前はこの診断をすることこそが教師の役割でありノウハウである訳だが、果たして正しく診断できているのかは教師の能力に完全に依存することだし、正しいか否かを検証することはほぼ不可能で、まして生徒にはほとんどブラックボックスで断片的にしかわからない(定義により生徒は教師より能力が低いと想定)ものである。また、教師が自分の診断に基づき(それが正しいとして)処方をしたとしても(その処方が正しいと仮定する)、生徒はその処方を教師の意図を正しく汲み取れるとは限らない(教師の伝え方に限界がある可能性も否定できない)し、自宅での練習がそれに適合しているとも限らない。従来の徒弟制度に膨大なムダが発生しているような気があらためてしてくる・・・

この問題を解決するアプローチは同時に以下の3項目を並行かつ相互補完的に行なう:

1 一流のコンサートピアニストに共通する能力を要素還元的におよび統合の形で解明する。脳科学と運動生理学が基礎となる。個人特有の能力すなわち「個性」の解明が等しく重要。

2 初心者およびそこそこ弾ける人の能力と様々な育成方法の効果の因果関係を明確にする。これも脳科学と運動生理学が基礎となる。育成方法には単に練習方法や教師の指導内容のみならず、音楽理論の理解度や他人の演奏を聴く機会(ピアノだけではなく)等、影響因子を含める。この特定が重要。

3 人工知能を含めた科学の最先端で何が把握可能か、未試行の応用可能性も含めて特定の上で、研究課題に具体化し開発を進める

1-3のどれもさらに3段階ほど掘り下げる必要はあるものの、大きな方向性としては示されたかと思う。

まずは少数のサンプルでやってみるのが肝要だが、その前にこのアプローチ仮説を有志で議論したい。これが第一歩かな。