コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

パワハラから立ち直る

経営コンサルになって4年目の頃、当時はもうプロマネをやっていたのですが、振り返るとあれはパワハラだったのだなと思う出来事がありました。

当時は自覚症状はなかったのですが、強いて病名をつけるならば「うつ」になったのはあれが主たる原因だったように思います。いまでも完全に治っているとはいえないのですが、かなり良くなっているとは思います。

ある大手金融機関のプロジェクトに、金融が専門でもなんでもないのにシニアパートナーから推薦されてプロマネをやることになりました。そのシニアパートナーとはその以前から、またその後も良い関係を築いてはいたのですが、問題は直属の上司になった(ジュニア)パートナーでした。ご本人も大手金融機関出身で(ただしそのクライアントとは別の銀行)、金融行政に明るくそして行内の力学も理解しており、そのクライアント金融機関の経営陣や部長レベルまで幅広い人脈を築いており、次々にそのクライアントからプロジェクトを受注し、いつも複数のプロジェクトの責任者を務めるやり手でした。そして本人もとても仕事熱心で、最初はとても人当たりがよく(クライアントにも私にも)、このプロジェクトにアサインされてよかったとおもいました。

ところがです。実際にプロジェクトを始めてみるととても厳しいのです。外資コンサルティングファームはどこもとても厳しいですが(最近は少し変わってきたようですが)、そのコンサルファームで何十というプロジェクトにかかわってきた自分からしても、特にその「指導」は厳しいものでした。

たとえば、チーム間の連絡は、当時はメールよりもボイスメールという留守番電話を使うことが即時性と内容の充実度の両面で優っていると位置付けられていたのですが、それが毎日入ってきます。ボイスメールは最長15分までしか残せないのですが、しばしばそれが2本、3本と連続で入ってきます。それ自体は仕事に役立つ情報ならもちろん大歓迎なのですが、そのパートナーがぼくに残すボイスメールはプロジェクト運営に必要かどうか微妙なことが多く・・・というかほとんどが個人攻撃なのです。個人攻撃というのは定義が主観的になるのですが、当時は少なくとも前向きにプロジェクトに取り組んでいたし、決して金融や銀行実務に関して詳しいと自覚するほどの知識は持ち合わせていなかったので、そういう問題ではないですが、それにしても毎日30分とか45分ダメ出しされるとさすがにそれに耐えられる人間は少ないのではないでしょうか。とにかく微に入り細に入り、一挙手一投足のみならず先の読み方まですべてダメなのです。それを何度も何度も毎日毎日繰り返し長々と説教されるのです。

こちらとしては結局一切反論することはありませんでした。これが何か月にもわたって続いたのです。これはぼくに対してだけではなく、ぼくの同期に対しても行なわれていました。彼も一切言い返さないタイプでした。そして敗血症で生死の境を彷徨うところまで追い込まれました。

いまから思うと完全に虜になっていたのですね。どんなに責められてもそれを当然のものとして受け入れ、すべて自分の至らなさがそう言わせているのだと。もうそうなるとそれまでに築き上げてきたものが全て否定されるような気になってしまいます。なにもかも、すべてがダメなのですね。反論の余地が一切ないまでに相手は攻めてきます。そして相手はこちらに反論の余地を残さないように、徹底的に攻めてくるのですね。

今にして思えば、彼自身問題を抱えていたのでしょう。そしてそうしなければ自分のsanityを維持することができなかったのでしょう。

そしてこれは後から聞いた話ですが、彼はおそらくその働き過ぎが祟ったのでしょう。脳梗塞になり、コンサルタントというか知識労働者としては再起不能になったと聞いています。

ぼくはといえば、その後10年経ちましたが今のところなんとか社会人を続けられています。もっとも来年はどうなっているかわからないですが、我々の職業というのはそもそもがハイリスクなものです。ハイリターンならいいのですがそうとも言い切れません。

結局自分の原因不明のアレルギーも、発症原因はこのことではないにせよ、ある程度再発に寄与していた原因はこれかもしれません。

ぼくが経験したことは所謂世の中で事件として取り上げられるパワハラとしてはまだまだ甘い方かもしれません。が、それでも心身を病むには十分過ぎるほどの仕打ちでした。

世間の人はこういう状況に巻き込まれる人を「社畜」の一言で片づけるかもしれません。が、当の本人はその状況でそこから逃れる術がないのです。術をみつけようにも巧みに絡め捕られるのです。社畜とかパワハラとかモラハラは本人のせいではありません。かといって加害者だけのせいではありません。加害者もまた病んでいるのです。

ぼくは少なくとも、多少なりとも当事者であった立場として、こういう状況を生む「システム」や「環境」を改善したい、そのために今の仕事を続けているといっても過言ではありません。どうか簡単に「社畜」とか言わないように。そして「パワハラ」とか「モラハラ」を簡単に誰かのせいにしないように。そういう思考停止に陥らずに皆で解決策を探していく、そんな風に少しでも世の中が変わっていければと思いますし、これからも努力していきたいと思います。