コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

AI/IoTでシステム思考が根付く

1995年日本語版出版のピーター・センゲ著「最強組織の法則」を読まれた方もいらっしゃると思いますが、この邦題は例によってきわめて安直なマーケティングギミックで、筆者が言うところの「読んではならないビジネス書」のタイトル筆頭なのですが、原題は”Fifth Discipline”であり、「最強組織」でも「法則」でもありません。この本が伝えたいメッセージは、組織のマネジメントにおけるシステム思考の重要性と有効性なのです。
組織論的に言えば、現代はもはや大量消費・大量生産時代の機械論的世界観は不適切であり、システム論的世界観で捉えなければなりません。もともとシステム論が正しいのですが、機械論の方が判りやすいすなわち管理しやすいので支配的になっただけのことです。
組織を動的なシステムと捉える理論であるシステム・ダイナミクスは、元をたどると1956年、MITのフォレスター教授の提唱に端を発し、研究が進んでいる分野です。今から60年も前ですね。広くはオペレーションズ・リサーチの一分野として位置付けられていますが、オペレーションズ・リサーチはもともと軍事分野で研究が進み(最先端の技術はITでもロボティクスでもそうですが)、その後民間に適用が進む道を辿りますが、システム・ダイナミクスは企業経営への応用はまだまだこれからであるものの、AI/IoTという技術プラットフォームが徐々に整備されつつあり今後指数関数的浸透(最も浸透は大抵指数関数もしくはロジスティクス関数的ですが)が見込まれる潮流において、事業価値向上と業績の安定を目的関数とする企業にとって、無視すべからざる注目の科学でありながら、その存在はほとんど認識されていないのが現状です。
日本企業でも研究開発レベルでは取り組んでいる企業もあります。たとえば日立製作所は、このシステム・ダイナミクスの企業経営への応用をツール開発の形で進めています。これは間違いなく目下日立が推進しているIoTプラットフォームであるルマーダ上のアプリケーションとなることでしょう。
政府が推進しており最近ますますホットな働き方改革は、特に知的集約的な産業に関して言うと、まことに的を外した(というよりこれから的を当てるのかもしれませんがまだあたってません)、過度に一般化されたものになっており、古典的な(古典的であることがいけないことではありませんが使う対象が間違っている)思考の、しかも生産性というからにはインプットとアウトプット双方を明確に定義しなければならないにも関わらず、アウトプットの定義は実質GDP、インプットの方は労働時間、という(国際比較の観点ではそれしか計測可能な対象がないので致し方ありませんが)とても実践的ではない、示唆に欠ける分析しか(少なくとも公には)出されていません。
「見えないものはマネージできない」といいますが、組織の生産性、特に知的集約的な組織のアウトプットは何で、そのドライバーは何なのか、を定義し計測することはまだまだ実用に供するレベルではできていません。
しかし「見えない」と言ってても思考停止なので、見えるようにしなければならない、あるいは現実に計測可能な代替指標の適切な組み合わせを特定し、閉じた系ではなく外に開いた系(システム)である企業組織における動的な関係において、それら指標のうちコントロール可能なものがどのようなドライバーでどれだけ動くのか、を特定すればシステム・ダイナミクスが活用できます。もちろん、現実世界においてそれは容易ではありませんし、指標も線形ではなく基本的には非線形の挙動を示すものです。
組織のパフォーマンスマネジメントは我々の業務でもありますが、こう考えると潜在的な市場機会はとても大きいものです。本来はこれをビジネスにしようとすると、組織・人材を直接の対象とする人事コンサルの領域なのでしょうが、おそらくケイパビリティ的に彼らの水準を超えるところにあるのかもしれません。彼らが持っている組織・人材評価・育成ツールは経験値に基づく線形のシステムだと思いますが、それを活かす方法はある筈なのですが。
シンギュラリティが組織への本質的な影響をもたらすとしたらシステム・ダイナミクスを理解しておくことは我々にとって必須でしょう。