コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

インシリコ創薬

インシリコ(in silico)は珪素を意味するラテン語silicoの中で(この場合inもラテン語です)という意味で、珪素半導体の意味、すなわちコンピュータで、ということです。

特に、ヘルスケア領域においては生体のメカニズムや新薬の効能等をモデリングの上数値シミュレーションすることを意味します。

インシリコに対して、動物や人体で試すことをインビーボ(in vivo)、試験管などを用いて実験することをインビトロ(in vitro、vitroはガラスの意味)と言い、医薬品業界や医療従事者は当たり前のように使う言葉です(ラテン語を使うとかっこいいと思うのは米国人もそうですが)。

実際、インシリコ創薬という分野が出現しています。

インシリコで新薬をデザインするには、まず創薬ターゲットの探索が必要で、このためにゲノム情報やバイオインフォマティクスを利用します。

次に、創薬ターゲットに対してドラッグデザイン(文字通り薬物の設計)を用いて、病因を阻害する薬剤候補を探索します。さらに、その薬物がどういう挙動をするか、インシリコADME(吸収、分布、代謝、排泄)、PKPD(薬物動力学)で計算機で予測するというもので、これらは従来in vivoやin vitroで行なわれていたことを一部もしくはかなりの部分代替するもので、新薬開発プロセスにおいてますますコンピュータとITが浸透していくことを意味します。

これはとても大きなポテンシャルがあると個人的には思っています。

京大の奥野先生が、今年3月の厚生労働省の審議会で発表された資料「創薬における人工知能応用」には

http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-10601000-Daijinkanboukouseikagakuka-Kouseikagakuka/0000154209.pdf

業界全体で1.2兆円の開発費削減、4年間の期間短縮が可能であるという試算があります。

もちろんこれはかなりざっくりした試算ですが、オーダー的にはそれぐらいのインパクトがあってもよいでしょう。

新薬というのは新規有効成分、新規物質というのが一般的な定義ではありますが、これ以外に既存の(既に薬として使われている)有効成分の新たな効能、つまり疾病治療への応用であるところの、既存薬再開発(ドラッグ・リポジショニング、Drug Repsitioning, DR)の可能性にも期待したいところです。

ドラッグ・リポジショニングについては九大の山西先生のインタビューがわかりやすいです。

synodos.jp

すなわち、これまでに使われている何万という薬と、膨大な量の臨床試験データや市販後安全性調査(post-marketing surveillance)等のデータから、「この薬はこの病気にも効く(治療、予防)のではないか?」という仮説を導き出し検証するのです。

古くから使われており安全性も立証されている既存薬であれば(もちろん相互作用、すなわち薬の飲み合わせの問題には注意する必要がありますが)、新しい適応が承認される可能性は新薬よりも高くなることも考えられます。もちろん有効性が高ければですが、実際にこのDRの成功例もいくつかあり、医薬品開発の効率も向上することはまちがいありません。

問題は有効成分が特許切れである場合です。このような場合には高い薬価が望めないジェネリックなので、開発力のある新薬メーカーは興味を示さない可能性が高いです。そうなるとジェネリックメーカーの取組に期待がかかります。

インシリコ創薬は新薬メーカーにとってもジェネリックメーカーにとってもチャンスであり、医療費削減と医療の質の向上の両面に資するものであり、今後注目され取り組みが進むことを期待しています。