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「保健医療2035」を読み解く(2)

2015年6月に厚労省が主宰、若手チームによる日本の保健医療システム改革に関する「保健医療2035」についての投稿、第2弾です。

前回はその概要と、改革提言の前提となる現状認識について書きました。

 

jimkbys471.hatenablog.com

 

今回は、ではこの現状からどう変えていくべきなのか、について書いてみたいとおもいます。

まず、この提言では、パラダイム・シフト」について鋭くまとめています。

パラダイムとは、ある時代のものの見方・考え方を支配する認識の枠組み」であり、そもそも現状の保健医療システムの根底にあるのは、これまでの右肩上がりの経済および人口動態を前提としたパラダイムであり、このパラダイムのままではどこにも行けない(というよりシステム破綻する)ために、パラダイムそのものを転換する必要があるというロジックです。

本提言では、5つのパラダイム・シフトが必要であるとしています(下線などは筆者):

  • 量の拡大⇒質の改善: あまねく、均質のサービスが量的に全国各地のあらゆる人々に行き渡ることを目指す時代から、必要な保健医療は確保しつつ質と効率の向上を絶え間なく目指す時代への転換
  • インプット中心⇒患者にとっての価値中心: 構造設備・人員配置や保健医療の投入量による管理や評価を行う時代から、医療資源の効率的活用やそれによってもたらされたアウトカムなどによる管理や評価を行う時代への転換
  • 行政による規制⇒当事者による規律: 中央集権的な様々な規制や業界の慣習の枠内で行動し、その秩序維持を図る時代から、患者、医療従事者、保険者、住民など保健医療の当事者による自律的で主体的なルールづくりを優先する時代への転換
  • キュア中心⇒ケア中心: 疾病の治癒と生命維持を主目的とする「キュア中心」の時代から、慢性疾患や一定の支障を抱えても生活の質を維持・向上させ、身体的のみならず精神的・社会的な意味も含めた健康を保つことを目指す「ケア中心」の時代への転換
  • 発散⇒統合: サービスや知見、制度の細分化・専門化を進め、利用者の個別課題へ対応する時代から、関係するサービスや専門職・制度間での価値やビジョンを共有した相互連携を重視し、多様化・複雑化する課題への切れ目のない対応をする時代への転換

 

この中で最も難しいかつインパクトが大きいのが 1番目の「量から質の追求」へのシフトだとおもいます。

医療需要というのはこれまで先進諸国が幾度となく試みて一度も成功していない極めて難しい課題です。というのも、医療は公共財でありフリーアクセスであり、病院は患者を拒むことができないからです。

日本は公的保険制度であり、保険というものは大なり小なりモラル・ハザードが発生します。すなわち、被保険者が、システムの維持の観点で好ましくない行動をとることです。簡単に言うと、「病気になっても病院に行けばいいや」と健康管理を疎かにするような生活行動自体がモラル・ハザードになります。

もちろん、好んでがんになろうとする人は滅多にいないとは思いますが、がんは生活習慣病の一種であり(そうでないがんもありますが)、長期にわたる生活習慣の改善によって予防することは可能とされています。多くの循環器疾患や糖尿病もそうですね。

ただし、人間には食欲というものもありますし、医者のいうとおりの「健康的な」生活は突き詰めると修行僧になってしまいますし、経済的に、或いは身体的な制約、職業上など様々な理由で現実的でないことも多いですし、生活習慣を変える「行動変容」は特に成人にとってはとても難しいことです。

甘いものが好きな人がすぱっと甘いものをやめられるでしょうか。お酒が好きな人に酒をやめろといってすぐに言うことを聞くでしょうか。1日1万歩歩けと言われて毎日歩くようになるでしょうか。

一部の健康ヲタクを除けばまず無理でしょうね。通常のやり方では。

ここで期待されているのがテクノロジーです。テクノロジーによる行動変容です。

(つづく)