コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

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あやしい健康法はやっぱりあやしい

かなり前ですが2015年8月のNew York Timesの医療コラムに、インディアナ大学医学部の教授が「水を一日2リットル飲むと身体に良いというのは根拠がない」と書いたことが反響を呼んだことがありました。

ミランダ・カーなどスーパーモデルが一日3リットル水を飲んで美しさを維持している等とウェブ上で喧伝されたり、ますます現代人は水(お茶やコーヒーではなく)を多量に飲むことがよいことだと信じられている傾向にあるのかもしれません。

また、水を飲む健康法に関して詳しく解説しているサイトも沢山ありますが(ググれば大量に出てきます)、極端なものになると水道水もミネラルウォーターもだめで、ウォーターサーバーだけが許される、などとしているものもあるほどです。

人体の組成の6割以上が水(H2O)であり、また代謝の副産物や飲食物に含まれる有害物質、あるいは老廃物を排出するためにも水分が必要であることは立証されていると言って良いと思います。

では、「水を2リットル」とはどういうことか、なぜそれが身体によいのかを論拠をもって解説してくれている人はいないようです。

ほとんど都市伝説と言ってもいいかもしれません。

そもそも2リットルの水というのは真水ではなく、食物に含まれる水分も含めて(目安として)2リットルというのが正しいようです。

水を飲む健康法の他にも、もっと古来より、以前このコラムでも取り上げた代替療法と呼ばれるもののほとんどは、科学的には疑似科学と分類されるものです。

疑似科学というのは、客観的に正しいとされる方法で立証されていないものの総体を指しますが、医療・健康に関わるものに特に多いようです。

たとえば、古来からある祈祷(国や地方によっては現在でも主たる「医療」であったりします)もそうですし、「~~でがんが消えた」、「~~で血液さらさら」といったもの、あるいはマイナスイオンホメオパシー、コラーゲンやヒアルロン酸トルマリンゲルマニウムバナジウム水、活性水素水・・・と枚挙に暇がありませんがこれらもそうです。

さらには、機能性表示食品も疑似科学でないことを免れるものではありません。STAP細胞疑似科学ですし、武田やノバルティスの臨床データに関する不正も疑似科学です。前回とりあげた断食も疑似科学です。

昨年WHOが加工肉に対する警鐘を発したり、かつては植物性脂肪は身体に良いと言われたのに対して反論が呈されたり、「~~が身体によい」とされるもののほとんどは数年も経たないうちに撤回されたり、新たな健康法とされるもののほとんどは信用ならないのに、相も変わらず次々と新しいカタカナやアルファベットが登場し、マス広告やダイレクトマーケティングを賑わせています。消費者庁もそれらを監視しきれない状態です。

インターネットの普及により、我々医学、薬学、化学、生物学の専門家でない一般消費者でも研究成果を辿り、またその評価に関する情報も入手して自分なりにある程度判断することができるようになったとはいえ、疑似科学の場合には、カール・ポパーの言う「反証可能性」が担保されていないこともあり、いくら情報が得られても判断できないこともあり、なにか権威ぽい方のそれらしい説得力のあるメッセージに惑わされてしまうことはある程度やむを得ないことなのかもしれませんが、少なくとも安易に手を出すべきではないことだけは言えると思います。

そもそも人体に関する科学の理解の程度とは、「わかっていないことの方が多い」のが現状です。

また、健康というものは一朝一夕に作られるものではないので(不健康になるのは簡単ですが)いくら身体に良いとは言っても効果が出るのに時間がかかるので食べあるいは飲み続けなければなりません。

しかし仮にそれが有害な健康法であった場合には、長く続けた場合の害悪も大きくハイリスクです。

このような基本スタンスで臨むのが、健康法については賢明だと思いますし、実は同じことは西洋医学、特に薬物療法にも言えることです。

慢性疾患の場合、何年、何十年にわたって飲み続ける訳ですが、医薬品の開発において長期投与といってもせいぜい半年が相場ですから、慢性疾患の治療からすれば短期に過ぎません。

このような限界があることを消費者が理解することが、実は健全な市場形成、健全な産業の方向付けになる、これこそがヘルスケアにおける真のconsumer empowermentであると思います。