昨年11月中旬に譜読みを開始した、20世紀最高(最大とする人もいる)の作曲家(異論はあるだろうが)オリヴィエ・メシアン(1908~1996)作曲(1944年)のピアノ組曲「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」第6番「その御方によって全ては成された」の分析を試みます。
まずタイトルの下には作曲者によるコメントが記されています。人の想像を超える空間と時間の広がり、銀河から光子までの(マクロからミクロまでの)スケール、反転する螺旋や逆行する雷光、と天地創造の瞬間を描こうとした意図が読み取れます。
【譜例1:タイトル、サブタイトル】
この曲は、冒頭に提示される主題が、メシアン独自の様々な技法で展開されます。
この曲は大きく10の部分からなります。表の左端がセクション番号、その右が小節数(何小節から何小節まで)、そしてそのセクションの特徴(内容)です。
【図表:曲の構成】
Section | #MM | from | to | Description | 内容 |
1 | 12 | 1 | 12 | Presentation | 主題・対主題提示 |
2 | 30 | 13 | 42 | Canon | 主題カノン、逆行不可能なリズム |
3 | 19 | 43 | 61 | Asymmetric Aggrandizement | 主題断片、非対称な拡大 |
4 | 7 | 62 | 68 | Theme d'accords | 調和の主題、分散和音 |
5 | 19 | 69 | 87 | Asymmetric Aggrandizement (mirror) | 3の鏡像(逆行) |
6 | 30 | 88 | 117 | Canon (mirror) | 2の鏡像(逆行) |
7 | 12 | 118 | 129 | Canon, aug fifth | 1の鏡像(逆行) |
8 | 31 | 130 | 160 | Canon, Asym. Aggr. | 主題カノン、非対称な拡大 |
9 | 43 | 161 | 203 | Theme of God and Love | 神の主題と愛の主題 |
10 | 27 | 204 | 230 | Coda-Finale | コーダ/フィナーレ |
第1セクション(主題提示)では、低音域に16分音符で主題が提示され、右手には対主題が置かれます。楽譜には調性が示されていませんが、嬰ニ短調(的)です。これは、メシアンがまなざし10番の狩りの歌、15番や20番で主調として用いている嬰ヘ長調の平行調(平行短調)に相当し、この曲もセクション9以降は嬰ヘ長調です。
【譜例1:1-2小節】
セクション1は12小節までです、冒頭のアウフタクトを含む(メシアンの場合の小節の数え方はアウフタクトや1音のみの小節(これは定義によりbarなので)も含めて数えます。 2小節目からは低音部の主題が「非対称な拡大」で展開されます。右手は主題がリズム、レジスター変化を受けたもので、主題と主題の対応になっています。
7-8小節は主題の反行形で、右手と左手も入れ替わっています。メシアンが愛した対称性がはっきり表わされています。
【譜例3:1-12小節】
第2セクションは13小節から42小節までの30小節です。セクションの始まりは主題による3声カノンです。ストレッタです。。13小節からは増8度間隔でソプラノ、テナー、バスにこれもメシアン独自の技法である「逆行不可能なリズム」(つまり逆にしても同じリズムということ、時間軸上の対照性、鏡像)を用い、アルトに16分音符のパッセージが絡みます。
【譜例4:13-20】
23-24小節にはメシアンの「テーマ」の一つ、「調和のテーマ」を凝縮したものが現れます。 この16分音符による和音のパッセージは天上の響です。subito p(突然ピアノ)で軽やかに、前のsfzも16音符なので音価は正確に間を開けずに弾くことが求められます。
【譜例5:21-25小節】
26小節目から再び主題の3声カノン(ストレッタ)ですが、今度はソプラノ、アルト、テナーに完全5度、減5度間隔となります。そして、バスに重音パッセージが出てくるのでより弾きにくくなりますが、実はバスの重音パッセージは主題の音程にほぼ沿って上下行するので(あくまでも方向的に)規則性ではなく、歌うように弾くことが重要です(どこでもそうだといえばそうですが)。
【譜例6:26-31小節】
そして再び調和のテーマが現れ、ここまでがセクション2です。
セクション3は、43小節から61小節までの19小節で、まずは主題が左手オクターブで奏されます。
それに続くのはこれまた弾きにくい左右の腕が交差する装飾音だらけの主題レジスター変化形で、調和のテーマのトレモロが続きます。
【譜例7:36-49小節】
このように同じモチーフ(主題、調和のテーマ)が基本なのでわかりやすいといえばわかりやすいのですが、リズムとレジスターの変化があるので実際に弾くのはとても容易とはいえたものではありません。じっくりと響を聴きながら体に浸み込ませていくように丹念に部分練習を重ねましょう(と自分に言い聞かせる)。
2か月以上経ったこともこともあり、ここまではほぼ暗譜できた状態です。
問題はここからです。
50-58小節は、この曲の最大の難所(3か所あります)のうちの一つです(とはいっても曲全体どこをとっても難所と言えば難所ですが。
【譜例8:50-61小節】
【譜例9:62-71小節】
【譜例10:72-77小節】
【譜例11:132小節~】
【譜例12:142小節~】
【譜例13:152小節~】
【譜例14:162小節~】
【譜例15:172小節~】
【譜例16:183小節~】
【譜例16:196小節~】
【譜例17:204小節(小節後半)~】
【譜例18:213小節~】
【譜例19:223-230小節(最終)】