約10年前にピアノを再開してからぼちぼちやってきたショパンエチュード作品25第6番、いわゆる「三度のエチュード」は、10-1、10-2、25-8と並びショパンエチュードの中でも難曲とされているが、特にこの中でも10-2と並ぶ難曲である。
1.なぜ難曲なのか
この曲は三度だから難しいと一般に思われているが、ではなぜ三度だから難しいかというと指の独立と脱力(実は指の独立も脱力だが)が求められるからである。
まず、この曲はどういうエチュードかというと、他のエチュード同様単純な三部形式で、モチーフは三度のトレモロ、半音階、また中間部では交替する三度のパッセージが主なものである。
2.求められること
左手はメカニカルには難しくないが、十分に歌うことが大切である。
速度指定の二分音符=69は守らなければならない。
三度のトレモロも半音階も、上の音は常にレガートで、しかもペダルに頼ることなく常につなげなければならない。下の音は上の音より弱く、沿えるように演奏する。
指や手の都合で変なアクセントがつかぬことが大切。
上の音はほとんどの場合3,4,5の指で弾くことになるので、基本的に10-2と同じテクニックである。
3.弾き方のコツ
この曲を指先だけで弾くのは無理がある。
手首の水平方向と垂直方向の回転をうまく組み合わせ、最も自然な形でタッチが行なわれるように手首を柔軟に使う。
手首の動きをうまく使うには、指は寝かせるのではなく手首を少し高い位置に保って指を立て気味にするとよい。
また、10-2でもそうだが、パッセージの進行方向に腕と手首をうまく使って可能な限り指に負担がかからないようにすることも大切である。
細かい速い動きなので、できるだけ鍵盤と指先の距離は短く保つこと。ほとんど鍵盤上を滑っていくようなイメージ。
4.練習のポイント
練習法は、最近発見したのだが、付点のリズム練習が有効である。付点は最初の音を伸ばすのと後の音を伸ばすのの2通りを交互に行なうのが良い。これをやると脱力も習得できるし、テンポを上げていく際にバラバラにならない。
付点はあくまでも鋭く。複付点気味に鋭く演奏することが効果的である。
レガートを徹底すべく、練習においてペダルは使わない。
また、長いフレーズが多いので、呼吸もレガートに合せる。これが意外と難しい(ピアノは管楽器と違って呼吸を適当にとっても弾けてしまうのでおろそかにしがちだが、呼吸で若干だが演奏が乱れることがあるのでブレスは大事である)。
練習にとりかかる前に重要なのは運指である。これは人によって手の形も大きさも指の長さも違うので、自分に合った運指を工夫するしかない。
自分が主に使っているのはエキエル版(ナショナル・エディション)だが、運指に関してはコルトー版に多くの選択肢が書かれているので、これを参考にするもよし。
三度のエチュードが弾けるようになるということは、ショパンの多くの楽曲に求められる「完全なる脱力」への重要な一歩である。
幻想ポロネーズやプレリュード24番などの要所に出てくる三度のパッセージは三度のエチュードが弾けるようになれば美しく楽に弾けるのでやはりこのエチュードは重要なのである。
ドビュッシーのエチュード1巻2番も三度のエチュードだが、ショパンの三度が弾ければ全く問題なく弾ける。自分の場合ドビュッシーの三度の方が楽である。
そして、この三度のエチュードで脱力を会得すれば、10-2や25-8を弾くにも役立つ。
なぜショパンはここまで難しい課題をピアニストに課すかというと、ショパンの曲を美しく弾くことの大前提が完全なる脱力だからである。10-1も脱力ができていないと厳しいものがある。
5.目標
25-6の到達目標は、自分はスルタノフに置いている。ダンタイソンや海老彰子のショパンコンクールでの演奏も見事だが、スルタノフはこれらを上回る美しさだと思う。
これをぜひご覧いただきたい。ペダルは控えめで流麗な三度パッセージがおわかりいただけるだろう(3:40あたりから):