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ショパン前奏曲集作品28⑯和声分析

熊本大学の中山孝史先生によるショパン全作品の和声分析は労作であり、ショパン作品のアナリーゼの際には必ず拝読させていただいているが、プレリュードについても当然参考にする。

論文のリンクはこちら:

https://ci.nii.ac.jp/els/contents110000954654.pdf?id=ART0001122352

この分析を理解するには、機能和声を理解しておく必要はあるが、ショパンの天才的な和声進行を理論的に把握するには中山先生の分析はとても助けになる。

もちろん自分で分析する方が勉強にはなるが、既に先人が分析されているものを参考にすることは自分の理解を確認する上で有用である。

 

ところで中山先生はプレリュードに関しては12番の特定の音がヘンレ原典版とパデレフスキ版で異なる点につき、自筆譜も踏まえて分析しており、様式上の問題も考慮しているが結論として12番の30小節目の右手の最後のオクターブはパデレフスキ版のDisではなくヘンレ版のDが自然であるとしている。

 

このあと26曲(作品45と遺作を含め)の和声分析を進めた後、結びとして興味深い仮説を展開されている。

 

「以上でプレリュードの和声分析を終わるが,和声的に見ると以下の点にその特長を見る事ができる。まず第1に旋法性の広い意味での多用,それは和声1個1個だけの引用のみならず、転調に際しても応用している点である。プレリュード集op.28は1831年~39年?にかけて作曲され、前奏曲嬰ハ短調op.45は1841年に作曲され、遺作の変イ長調前奏曲1834年に作曲され、いずれもショパンの盛期の作にあたる。この旋法性はショパンのどこかの時代に集中しているのか、又は彼の生涯を通じて見る事ができるのか,、この事については全作品を分析した結果、ジャンルに関して、作曲時期に関しての詳細な分析を試みるつもりである。そうする事によってこのプレリュードの彼の作品の中に於ける位置づけができるであろう。又、もう1つの点は長びかされた倚音、係留音の解決の問題である.。これはR.ワーグナーの例の“トリスタンの和音”にも共通している事で調性崩壊の目ばえとも言えるのではないか。勿論ショパンは無調の音楽を作曲している訳ではないが、機能和声の崩壊の歴史上の一翼を担っていると言えるかも知れない.。」

 

ショパン前奏曲集の魅力の本質にもう一歩迫った気がする。