作曲者の意図を汲み取るには(版による音の違いをどう解釈するかを含め)、自筆譜にあたるのが最善の方法の一つである。
しかし一つ問題があって、同じ曲の自筆譜にも複数の種類が存在する可能性があることである。
それでも、どれか自筆譜に自らあたってみることは価値がある。
幸いなことに、ショパン前奏曲集作品28の自筆譜(全曲ではないが)がウェブ上で無料で公開されている。
Youtube形式で演奏付きで示されているので、スクリーンキャプチャして自分なりに作曲プロセスを解釈してみた。
1,2,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,20,22番の15曲あるので、5曲ずつ考察していこうと思う。今回は1,2,5,6,7番。
第1番 ハ長調:
右手の冒頭16分休符が16~18小節で後から黒く塗りつぶされている。この部分はこの曲最大の特徴だが、ショパンが後からこの箇所をstretto的に工夫した跡が見える。
第2番 イ短調:
16,17小節目の右手のfの前が黒く塗られている。#を消したのだろうか。この曲はイ短調だが、これまで解説してきたとおり調性が明確になるのはラストであり、それまではホ短調→ト長調→ロ短調→ニ長調と推移する。そのためここまではfはfisに変位させていたのだが、16小節からイ短調に向かうことを明確にしようとしたのだろうか。
第5番 ニ長調:
33小節からの3小節の右手が全面的に書き換えられている。前奏曲集のいくつかの曲はあえて再現部を短くして次の曲への推進力を持たせているが、ここでコーダ的な現在の音型に書き換えることでその性格を持たせたように思える。
第6番 ロ短調:
16、17小節目の右手が書き換えられており、しかも書き換えた後も右手の変位記号を消しているので、ここは15小節から変えようとした当初の意図がうかがえる。
第7番 イ長調:
9小節目の1拍目右手、書き換えているのだが、いったん消してはみたものの結局変えなかったように見える。ここは主題の再現なので、変化をつけるべくgisを入れるかどうか迷ったのだろうか。そう考えるだけでこの再現部を一層大切に弾かなければならない気にさせられる。