ハンス・フォン・ビューローが「死の予感」と呼んだが、自分としては「死」そのもののように思える。
音の少ない曲だが、それだけに1音1音のウェイトが高い。まず冒頭の2声であるところの左手における声部のバランスが問われる。
繰り返される転調に伴う繊細な色彩の変化もこの曲のポイントである。
それから休符の表現。18小節目のslentandoに続く19小節は完全な静寂が訪れ、2拍後にメロディが復活するが、ここはまるで命の炎が一旦消えたかに見えてまだ点ってそして最後に息が絶えるかのようである。
武満徹は、美術でも音楽でも西洋のものは全て塗り尽くそうとするが、自分は日本絵画で決して全て色を塗らず地の紙の色を活かす、と言った。この言葉のように、ショパンは西洋音楽でありながら、この休符を地の紙のように扱っているようにも思える。