コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

ビジネス・インテリジェンスとは

いま、クライアントのBI導入のお手伝いをしているので、ビジネスインテリジェンスについて少し語ってみたいと思う。

BIという言葉が日本で人口に膾炙するようになったのは2年ぐらい前からだと思うが、実は10年ほど前から自分はコンサルとしてビジネスインテリジェンスという言葉を使っていた。

10年前、ある大手日本企業の戦略策定能力強化のプロジェクトのプロマネをしていたのだが、クライアントのカウンターパートである経営企画担当役員副社長がご賢察だったのは、世界中の異なる拠点で戦略策定・遂行能力にばらつきがあり、底上げをすると共に、経営資源配分の意思決定(経営とは経営資源配分に他ならない)を経営者として行なえるようなツールが欲しいということだった。

以前幹部として勤務していたGEは世界中どの拠点でもどのビジネスでも同じ枠組で戦略を策定し計画を立て、進捗をモニタリングすることができている。

これをヒントに、クライアント向けに、どの国でもどのビジネスでも共通の枠組を作ることにし、クライアントの企画担当者や現場の方々にたたき台をぶつけ、これならいける、となったところで全世界約20拠点に展開した。

自分も実際にアメリカや中国の拠点に赴き、この枠組をどう使うかを説明し、やはりこれは使えると確信し、実際にクライアントも評価してくれた。

この枠組で重要なのは、予算の進捗・達成状況を見ることができることではなく、どう予算を作るか、である。

世の中のBIツールと言われるものは、異口同音に「可視化によって経営意思決定を可能とする」とうたっているが、確かにビジネスレビューでそれは重要なのだが、そもそも予算は、あるいは計画は、どういう情報に基づいてどう作成したか、前提とロジックが明確でなければ、実際のオペレーション結果が予算と乖離した場合に、何を修正したら良いかがやはり不明確になる。

事業計画の前提が間違っていたのか、それとも計画策定段階とは事業環境が変化したのか、事業環境の前提は変わっていなくとも自社の状況に変化があったのか、あるいは単にミスを冒しただけなのか、の判別ができないのである。

ビジネス・インテリジェンスとは、これは自分の定義であるが、「ダイナミックに変化する事業環境を的確に把握できる組織能力」である。

いくら洗練された可視化ツールがあっても、取りに行く元のデータがゴミだったら可視化した結果もゴミである。garbage in, garbage outである。

優れたBIツールあるいはシステムとは、経営者が的確な判断をするにはどういう分析をどう見せるかではなく、どういう情報を取りに行けばいいのかを判断できるようなものでなければならない。

ビジネスにおいて、本当にクリティカルな情報は、まずウェブ上で収集できるようなものではない。

GEでも営業と共に顧客を訪問したり、またコンサルとして営業生産性向上プロジェクトをいくつもやったことがあるが、営業の前線にこそ生きた得難い情報があり、デキる営業は頭脳と五感を駆使して必要な情報を取りに行く。

彼らは、客に対して的確な情報を提供することでしか得られない客の本音を聞き出し、営業先で競合の営業の動きや出入業者の動きなどからも事業環境を把握するために必要な情報を鋭い観察眼でキャッチする。競合の営業と仲良くなっていたりもする。

こういう「デキる」営業、あるいは営業でなくてもマーケティングであってもいいのだが、とにかく事業環境およびその変化をタイムリーに察知することができる組織、察知した情報を元に適時に的確な意思決定ができる組織、そのような組織こそがビジネス・インテリジェンスの高い組織なのである。

オートメーションすべきところはどんどんオートメーションすべきであるが、ビジネス・インテリジェンスの核心のところはオートメーションできない。仮にそのようなビジネスがあったとすると、それは早晩コモディティ化するビジネスであろう。ほとんどのビジネスはやはり人間の知恵と行動が必要であり、その領域にこそ人間の使う時間を集中的に使う。これも経営資源配分である。そのために付加価値の低い作業はどんどんテクノロジーを活用して自動化なり効率化すべきである。

働く人が楽になり、かつ同時に生産性も上がる。組織能力も高まり事業は成長し収益性も高まる。これこそがテクノロジーの使命であり、経営者が意識し実行すべきことなのである。これからもそういうお手伝いをしていきたいと思っている。