今回は気合の入った投稿です。書くのに4日かけています。これは1,000PVは行くはず。行かなかったらブログやめるかも。
5年以上前のことですが、幼子(みどりごという場合もある)イエスに注ぐ20のまなざしにはまった頃があり、イボンヌ・ロリオの演奏はもとより、菊池裕介さん、安田正昭さんの全曲演奏をライブで聴くなどし、また自分でもかじっていた時期がありました。その時にやりかけたのが10番「喜びの精霊のまなざし」だったのですが、あまりに難しい(と当時は思った)ので挫折したことがありました。
アマチュアピアニストの真髄は挑戦的であること、と最近読んで久々に「なるほど!」と思ったピアノの書籍(ほとんどはあまり参考にならない、ただし「挑戦するピアニスト」(金子一朗著)はもちろん除く)にありました。
"adventurous"であることこそ楽しみ上達することの本質であると。
そこで、5年前にやりかけて挫折した曲に、再度挑むことにしました。
フランスの作曲家オリビエ・メシアンの傑作「幼子イエスに注ぐ20のまなざし」の前半の終曲、第10曲「喜びの精霊のまなざし(Regard de l'Esprit de joie)」です。
アマチュアピアニスト仲間に、この大作20曲全部弾いたことある人が2人もいるのですが、彼らに言わせても「大変な」曲なのだそうです。
しかし、しかしですよ、挑戦するピアニストとしてはひるんではいけません。
10/7のコンサートで暗譜で弾くべく(目標は高く!)、おとといから取り組み始めました。
最初に為すべきことは曲の全体像と構造の把握です。
この曲集自体がイエスキリストの生誕を祝うものであることを踏まえた上で、この第10曲は、喜びの精霊が最大限に喜びを表すものです。
曲は7つの部分から構成されます。
- 東洋風舞曲(1-32小節)
- 喜びの主題に基づく第一展開部(33-40小節)
- 推移部(41-59小節)
- 「狩の歌」の三つの変奏(60-131小節)
- 讃歌(132-184小節)
- 東洋風舞曲の展開部(185-216小節)
- 喜びの主題に基づくコーダ(217-231小節)
ここからは楽譜をみながらいきましょう。
冒頭は東洋風舞曲です。フランス語の記述で、「東洋風に単旋教会歌唱的に(Thème de danse orientale et plain-chantesque)」とあります。まずはこのいきなり激しい踊り。
低音のユニゾンでの不規則なポリリズムです。決して同じパターンは繰り返されず、変化に富んでいます。
ただ、これは間違っているかもしれないのですが、メシアンが命名し、好んで使った「移調の限られた旋法(MTL、modes à transpositions limitées)」(7種類ある)のどれかというと、第7のMTLで、基音はFisと思われます。
予測できません。
高揚して行きます。
次のセクションは喜びの主題(Thème de joie)に基づく第一展開部です。
この画像は下が切れてしまったのですが、この下の段に低音部に喜びの主題が初めて登場します。
このセクションは33~40小節の8小節と短いのですが、喜びの主題の後に左右反行(右は下降、左は上昇)の高速パッセージが2度現れ手強いです。
41小節目から3番目のセクションである推移部が59小節まで続きます。ここはメシアンの語法の一つである非対称的な拡大(Agrandissements asymetriques)の13小節が続き、跳躍も大きく技巧的にかなり高難度です。
緊張感高めた推移部の最後はA-durのVにあたるeのオクターブで緊張がピークに達し、次の第4セクションである狩の歌の3つの変奏を導きます。
とてもきらびやかでメシアンにしてはきわめてわかりやすい旋律です。この曲の「サビ」の部分と言ってもいいでしょう。メシアンの旋法で長調を基本に複合和音で構成した調性音楽です。第1変奏はA-dur、続く第2変奏はDes-dur、 最後の第3変奏はF-durです。
狩の歌3変奏は長大なセクションで60~131小節と72小節(この曲の約3割)ありますが、この急速なセクションの後に、緩徐な第5セクション、讃歌(これはぼくが勝手に命名)が高らかに歌われます。一気に急坂を昇って見晴らしの良い高台に到達したかのうような情景です。喜びの主題に続き神の主題(Theme de Dieu)が現れます。
喜びの主題が再現され、変容した後、第6セクションである東洋風舞曲(冒頭の主題)が今度は四度和音で展開されます。
217小節からは最期の第7セクション、喜びの主題に基づくコーダです。高らかな鳥の歌も聞かれ、狩の歌の断片に続く急速な下降パッセージで突然幕を閉じます。
一度は挫折した曲ですが、やはりこの曲の魅力には勝てません。
メシアンの語法を体得すべくじっくり時間をかけて自分の音楽に仕立て上げたいとおもいます。