2018-11-01から1ヶ月間の記事一覧
前回に続き、加藤一郎氏によるショパン前奏曲集作品28の自筆譜に基づくペダリングの分析について書いてみる。 下図は1番の譜である。注目すべきは私が赤丸で囲んだ21小節目のペダルを上げる記号の位置である。 加藤氏の着眼の良さは、この小節においても、他…
ショパンという作曲家は、強弱(f,p,cres,decres,dim等)にしてもペダリングにしても、音楽理論的に「当たり前」であることは基本的に記譜しないので、西洋音楽の基本である音楽理論(特に機能和声)を理解し、作曲者の意図を正しく分析し把握しているかどう…
先日行なわれたピアノのマスタークラスにおいて、自分はレッスン生として参加したわけですが、講師であるピアニストが使われた用語の中で、とりわけ我々受講生の心に響いた言葉が、「彫琢」です。 彫琢とは、彫刻とは異なり、読んで字の如く「彫(ほ)って琢…
前回に続き、「こんな演奏は好きになれない」を13番から16番について述べてみる。 第13番 嬰ヘ長調: 4小節目の右手の五連符が均等でない演奏(第1音が長すぎる) 中間部、左手のラインが出ていない演奏 第14番 変ホ短調: テンポが速すぎて風呂場の早口言葉…
前回に続き、「こんな演奏は好きになれない」を9番から12番について述べてみる。 第9番 ホ長調: 右手の三連符と付点四分音符はショパンの記譜ではノート・エガルすなわち三連符の音価に合わせて弾くのがこの曲の壮大な曲想を表現するためにも正しいと思って…
前回に続き、「こんな演奏は好きになれない」を5番から8番について述べてみる。 第5番 ニ長調: テンポが速すぎる演奏。ショパンは確かにAllegro Moltoと書いているが、あまりに速過ぎてまるで練習曲の如くなり、色彩の変化も聴き取れない演奏 第6番 ロ短調…
今回がこのシリーズ最後になるが、前回に続き、「こんな演奏は好きになれない」を21番から24番について述べてみる。 第21番 変ロ長調: 左手の旋律を歌うのは良いが、右手の歌い方とのバランスが悪い演奏 第22番 ト短調: 左手ばかりになっている演奏 吠えす…
前回に続き、「こんな演奏は好きになれない」を17番から20番について述べてみる。 第17番 変イ長調: 和音中の動く音のライン(20小節、22小節など)が不明瞭 後半、11回鳴らされるバスのAsが無造作 第18番 ヘ短調: 4小節目最後の拍の五連符が無表情 休符の…
これまでショパン前奏曲集作品28は、ライブ、音源(CD、Youtube)で50人超のプロ、アマ(アマといっても国際コンクールがほとんど)の演奏を聴いてきたが、かなり高い水準の演奏であっても、どうしても気になってしまい好きになれない演奏があるので、どうい…
前々回、前回に続きウェブ上で簡単に入手できた自筆譜に基づき自分なりに作曲者の意図を汲み取ってみる。今回は13番、14番、15番、20番、22番。 13番 嬰ヘ長調: 最後の2小節が全面的に書き換えられている。ここにも後続の14番との連結を意識しているのであ…
前回の続き。今回は8,9,10,11,12番。 まずは第8番: 9-10小節かなり書き換えられた跡がある。ここは嬰ヘ短調から変ロ長調に遠隔転調するこの曲で最も印象的かつ自分が最も好きな箇所だけに、このように工夫の跡が自筆譜上でみられることはうれしい。 第9…
作曲者の意図を汲み取るには(版による音の違いをどう解釈するかを含め)、自筆譜にあたるのが最善の方法の一つである。 しかし一つ問題があって、同じ曲の自筆譜にも複数の種類が存在する可能性があることである。 それでも、どれか自筆譜に自らあたってみ…
ピアニスト下田幸二氏は、「聴くために 弾くために ショパン全曲解説」を著している。本棚の片隅にあったものを引っ張り出して前奏曲集作品28の解説を読んだところ、これが短いながらも寸鉄のごとくこの作品の魅力と意義を伝えているのでここに引用する。 we…
Youtubeは音源が充実しているのみならず、レッスン動画(チュートリアル)も充実している。 少し前から取り組んでいるスクリャービンのエチュード作品42第5などは、あのナウモフ教授のマスタークラスの動画もあったりする(ロシア語、英語字幕)。 ショパン…
作品28は全曲で1曲と主張してきているが、コンサートなど公開演奏の場でなかなか40分確保する機会はないので、作品28を弾くとしたら抜粋するしかない。 そこであえて抜粋するとしたらどういう組み合わせがよいか考えてみる。 これまで公開演奏は2回やってい…
コルトー、アルトゥール・ルービンシュタインなど往年の名ピアニストの作品28全曲をあらためて通して聴く。 この曲集を聴くときは必ず全曲通して聴く。 曲想のコントラストや曲間もこの作品の重要不可欠な要素だからである。 彼らの演奏を聴いていると、果た…
これまでWikipedia英語版を除き、日本語の文献を紹介また研究してきたが、ほぼ主要な日本語情報源はあたったと思われるので、これからは海外(英語に限らず)をあたっていくことにする。 まずはFred Yuという人による全曲の簡潔な譜例付の解説サイト。内容的…
少なくとも一般的に人気のある作品ではない。 ショパンのピアノ曲人気ランキングで上位に来ることはない。 たとえば子犬のワルツ、英雄ポロネーズ、黒鍵や革命のエチュード。 あるいはソナタ3番やスケルツォ2番や3番、バラード1番などと較べて、長大であるの…
ピアノ誌「レッスンの友」1992年9月号から1994年6月号に20回にわたって長期連載された渡辺圭子氏によるショパン前奏曲集作品28の解説「譜を読む」は力作である。 初回はショパンと石川啄木の共通点の多さに着目し、24曲を日記の形で綴っているというユニーク…
ショパンを演奏する上でとても有益な手がかりになる一冊がある。 これである。 p115〜に、各曲の解釈ということで弟子たちの貴重な基準がある。 レリュード変イ長調作品28の17ある日のこと、わたしがプレリュードの17番を弾いていると、デュボワ夫人が、ショ…
ショパン前奏曲集作品28に関する文献を引き続き検索していたところ、素晴らしい研究論文に出会った。 昨年度の日大芸術学部博士請求論文、「フレデリク・フランチシェク・ショパンの《24の前奏曲》作品28にみられる旋法への傾斜」と題された論文である。 先…
研究は続く。 最も嫌われる演奏は、「自分勝手」に聴こえる演奏である。自分勝手に聴こえる理由はいくつかあるが、テンポの揺らし方に説得力がない、すなわちやり過ぎたり、遅くすべきところで遅くしない、速くすべきところで速くしない、ことはかなりマイナ…
祝!1,000投稿! 今回は避けて通れない個々の曲の難易度について書いてみる。 個別に断片的にどの曲が難しい難しくないという意見はよく聞くが、全曲の難易度を示したものはHenleによるものぐらいであろう。 Henle社によると、各曲の難易度は以下のとおりで…
熊本大学の中山孝史先生によるショパン全作品の和声分析は労作であり、ショパン作品のアナリーゼの際には必ず拝読させていただいているが、プレリュードについても当然参考にする。 論文のリンクはこちら: https://ci.nii.ac.jp/els/contents110000954654.p…
楽曲解説のまた別のバージョンを発見したのでここに引用する。 草間眞知子氏による、「ショパン作曲《24のプレリュード 作品28》の音楽的表象の図式的表現の試み」(広島大学教育学部紀要第二部第46号、1997年)という論文からのものである。 全曲について縦…
今回は、実際に良い演奏にすべく、これまで自分が受けたレッスンで指摘されたポイントや重要な注意事項挙げてみる。 全曲に共通するのはポリフォニーである。 他のショパンの曲もそうだが、バッハへのオマージュであれば尚更である。可能な限り立体感を、遠…
今回は音源について。 ショパン前奏曲集作品28は、コルトーに始まり数多く(正確に何人かはわからないのだけど)のピアニストが録音を残している。 このサイトにはなんと32名のピアニストの録音の評価が記述されている力作である。自分より遥かにこの曲に入…
「レコード芸術」誌2015年10月号にピアニストの下田浩二氏が連載「ピアノ解体新書」第58回に「マヨルカ島で生まれた24の真珠」と題してショパン前奏曲集作品28の解説を簡潔に書かれており、これが素晴らしいのでテキストのみ引用させていただきたい。とても…
前回に続き4曲ずつ個々の楽曲解説を試みる。個々の楽曲解説は今回が最終で、21番から24番まで。 参考にさせていただいたサイトは④に記載している。 第21番 変ロ長調(B flat major) Cantabile、4分の3拍子、59小節 13番同様ノクターン風の曲想。伴奏形が波…
前回に続き4曲ずつ個々の楽曲解説を試みる。今回は17番から20番まで。 参考にさせていただいたサイトは④に記載している。 第17番 変イ長調(A flat major) Allegretto、8分の6拍子、90小節 温和な曲想で繋留音を多用している。 メンデルスゾーンの無言歌を…