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ショパン前奏曲集作品28⑮楽曲解説発見

楽曲解説のまた別のバージョンを発見したのでここに引用する。

草間眞知子氏による、「ショパン作曲《24のプレリュード 作品28》の音楽的表象の図式的表現の試み」(広島大学教育学部紀要第二部第46号、1997年)という論文からのものである。

全曲について縦軸にエネルギーレベル、横軸に時間軸(小節)をとって表現した試みはなかなか面白い。音楽のピークと方向性を理解して演奏することはきわめて重要であり、それを可視化するという試みである。

 

《24のプレリュード作品28》図式的表現への補足

図式的表現に補足して、各曲に対する筆者の心象及び演奏上の留意点を以下に記す:

第1番ハ長調 Agitato 2/8

ー期待- 右手が二声になっているので親指に対し小指が呼応するように弾く。[2-9]小節(以下、小節を省略)以降の2拍目Cの長さに気をつけ、ペダルの扱い方に充分注意すること。

第2番イ短調Lento 4/4

カタコンベショパンはレッスンの際、メトロノームをいつもピアノの上に置いていた。そして、左手の伴奏は正確なテンポを保ち、歌の方はテンポを変えながら伸び伸び弾きなさいと教えていた。左手のテンポをくずさないよう、和音の変化する所を意識すること。

第3番 ト長調 Vivace 4/4

-躍動- ショパンは中学生の頃、首席の一人として勉強もよく出来たが、人の物まねや漫画を書くことも上手な悪戯っ子でもあった。活き活きと軽く、おどけた感じ。

第4番ホ短調 Largo 2/2

-嘆き- 4分音符から付点2分音符へはポルタメントをかける。左手の半音階の動きを充分意識する。

第5番 二長調 Molto allegro 3/8

-おしゃべり- 総ての音の動きがはっきりわかるように弾く。テンポは速すぎない。特に3拍目の音の動きに注意するとよい。右手の8分音符はよく響かせるようにする。

第6番 口短調 Lento assai 3/ 4

-郷愁- 左手のメロディーを朗々と歌う。他の楽器を連想するならば、チェロ。M6 の3拍目からM8の2拍目までは、右手のメロディーが主となる。

第7番 イ長調 Andantino 3/4

-恋人との幸せなひととき- デルフィーネ·ポトツカの楽譜帳に書きとめられている。マズルカ風。

第8番 嬰ヘ短調 Molto Agitato 4/4

-絶望 焦燥 諦観- 右手の主たる旋律は親指にあるが、細かい音符も副のメロディーとする。息切れしないよう、流れの方向性をはっきりと表現する。M27~34は二小節毎にニュアンスを変える。

第9番 ホ長調 Largo 4/4

ー郷愁ー ショパンの自筆譜を見ると右手2拍目の上声、中声の最後の音は重なって書かれている。弾き方は、同時に弾くか、ずらして弾くか、の二通り考えられる。ずらして弾く場合は16分音符と32分音符の差をはっきりさせて弾くべきである。

第10番 嬰ハ短調 Molto allegro 3/4

-悪戯とユーモア-16分音符の動きは軽快に、左手のアルペジオはひっかけるように鋭く軽くして、テンポをしっかりとる。M4の左手の16分休符を充分意識して弾く。

第11番 ロ長調 Vivace 6/8

-憧憬- legatoのため、テンポはあまり速くしない。右手のメロディーの感じ方について、M3-4,7-8,11-13,15-16,19-20は1拍目と6拍目、M5,9-10,17は1拍目と3拍目と5柏目、M6,18,22-24は6個(M23は3個)の8分音符を意識する。

第12番 嬰ト短調 Presto 3/4

-戦場に赴く騎士- 難曲である。精神的緊張の持続、突き進む動き、それに伴う昂揚感が必要とされる。

第13番 嬰へ長調 Lento 6/4

-追憶- M21から23まではソプラノの動きを主として充分響かせ、下部三声のいずれかを副のメロディーとして呼応させる。

第14番変ホ短調Allegro

-嵐-pesanteのため、テンポはあまり速くしない。強弱記号通りに、ダイナミックをはっきりつける。M15~18は 6拍子に感じてメロディーを響かせる。

第15番 変二短調 Sostenuto 4/4

-雨だれ- 雨だれの名称で有名な曲。メロディーをたっぷり歌う。左手の動きのなかで、隠されたメロディーを見つけること。伴奏における8分音符は、タッチを揃え、動きが不安定にならないように弾く。

第16番 変ロ短調 Presto con fuoco 2/ 2

-激情- 難曲である。右手の速い動きは、単なる弾きとばしにならないで、何を言いたいのかがはっきりわかるように表現する。左手で、躍動感をはっきり表現する。一貫して、精神的緊張感を強く持って演奏する。

第17番 変イ長調 Allegretto 6/8

-幸福- メロディーをたっぷり歌う。スフォルツァンドのついたM65)からM90におけるAsは、教会の鐘の音のように響きわたらせる。その響きのベールに包まれた一層の幸福感を表現する

第18番 へ短調 Molto allegro 4/ 4

-怒り- 怒りを表出するように。テンポは、幾分自由にとる。最後の二つの和音を決然と弾く。その前の休止は強い緊張感を持つ。

第19番 変ホ長調 Vivace 3/4

-天馬の飛翔- 軽妙洒脱に弾く。調の変化をよく感じとる。半音階の動きは、決して重くならず、しなやかに。M29~32とM65~68は、2拍子に感じてよい。最後の二つの和音で引き締める。

第20番ハ短調 Largo 4/4

-葬送ㄧ 厳粛に、荘重なテンポで進んで行く。葬列が、目の前からだんだん遠ざかる。第三小節4拍目はEで弾かれるのを聴くことがあるが、ショパンが亡くなる前Esにしたとの説をとり、現在の版ではほとんどEsになっている。

第21番 変ロ長調Cantabile 3/ 4

-憂愁-左手の動きは右手のメロディーを補足する働きをする。長調ではあるが、何かもの悲しい。

第22番 ト短調Molto agitato 6/8

-絶望- 主として左手で音楽を構築して行く。右手は左手のメロディーをしっかり受けて弾く。

第23番 へ長調Moderato 4/ 4

-子供の頃の楽しい思い出- 右手は軽やかに流麗に、左手は諧謔的に弾く。 Esのアクセントはよく響かせる。M21のEsは一抹の不安を与える。

第24番 ニ短調 Allegro appassionata 6/8

ー激情- 最後を飾るにふさわしい曲である。祖国ポーランドが他国に蹂躙されたことに対する激しい怒り、絶望、やるせなさを表現する、細かい音符の動きに対する左手の動きについて、6拍目だけに時間をとらないよう、動きの配分を考えること、精神的な力の蓄積、緊張感を要求される。ショパンはこの24番を曲集の終曲としたいがために、曲の配置を五度圏に考えたのではなかろうか。