コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

シナリオプランニングの核心

これまでに何度かシナリオプランニングをコンサルティングプロジェクトとして実施し、またあらためて今般もシナリオプランニングを複数件相談されている。

シナリオプランニングとは、元々は大手石油会社であるシェル(Royal Dutch Shell)が、企業戦略の策定の為に行ない、その手法が認められて広まり、日本でも定着しているものだ。

シナリオプランニングについては多くの参考書が出ているが、知人でもあり母校(米国のビジネススクール)の先輩である西村さんのこの本をお勧めする。

 

最近これとは別にリスクマネジメントのプロジェクトを成功裏にやり遂げたが、戦略策定のためのシナリオプランニングとリスクマネジメントは極めて近い関係にある。

共通なのは世界観である。

世界観というのは自分が好きな言葉であるが、定義を明確にしておかないといけない。

自分を取り巻く環境をどこまで広くまたどのように自分が見るかである。

人それぞれ世界観は違う。また自分の世界観も変わる。

 

さて、シナリオという名の複数の(これまでとは異なる)世界観を作るポイントは何か。

まず、今の世界観を形成する要素を洗い出し、その要素の前提を疑うことから始める。

たとえば、うつ病の薬を開発し販売するという事業を例にとってみると、なぜその事業が成立するかと言えば、

売上高=潜在患者数×病識がある患者の割合×受診する割合×薬を処方される割合×自社の薬のシェア×投薬回数(一日当たり錠数×期間(日))

があり、かつこの薬が売れる期間の売上高から、薬の開発費+製造費(原材料費を含む)+営業・マーケティング費用+物流費=総費用を引いた粗利が少なくとも販管費をカバーしなければならない。

現在の世界観の中でも、全ては変数であり、それら変数には自社でコントロールできるものとできないもの、またコントロールできるにしてもコントロールする限界がある。

シナリオのドライバーを特定するとは、この現在の世界でコントロールできる変数がコントロールできる範囲で変化する程度のものではなく、もし(what if)現在の想定を大きく超えて変化したらどうなるか、あるいは新たな変数が現れたらどうなるか、を考えることである。

たとえば売上高の因子である、「薬を処方される割合」が大幅に減ったらどうなるか。うつ病など精神疾患の薬には大きな問題が指摘されている。副作用もそうだが、そもそも効かないのではないか、という指摘である。

そこで代替治療法として今アメリカを中心に注目され既に市場に出ているのが、デジタルメディスンと呼ばれる、アプリを用いた治療法である。これまでにも認知行動療法というものがあるが、スマホ等のアプリはうつ病患者の認知・行動を変容する上で効果があることが医学的に認められてきているのである。最も、完全に代替するとは限らず、薬と併用する治療法もある。

これまでは代替されなかったものが、テクノロジーの進歩により代替される脅威が顕在化することは往々にしてあることだ。

或いは、疾患の定義そのものが変わり、従来の治療法があまり有効でなかった理由が判明し、治療の選択肢が変わるかもしれない。アルツハイマー認知症と診断されていたものがそうではない可能性があるという研究結果も発表されたばかりである。これが正しいとすると、これまで存在していた市場が突如消滅する、あるいは消滅しないまでも大幅に縮小することはあるかもしれない。

遺伝子診断がより進化し、ある抗がん剤が特定の遺伝子型の患者にしか効かないことが判れば、奏効率が高まる一方で対象患者数は当然ながら大幅に減る(たとえば2割)。既にこれは上市されている抗がん剤で起きていることである(最もとても高額なのでそれでも市場は莫大だが)。より精密な診断で特異性が高まれば、さらに市場は小さくなるだろう。

もともと「人間の数だけ病気はある」という考え方もある訳で、そうなるとますます医薬品市場はロングテール化する。

医薬品に限らず、personalizationが進む消費財の世界では既にロングテール化は起きている。そうなると従来のマーケティングの考え方にある「ボリュームゾーン」は消滅してしまい、事業モデルの抜本的な見直しを求められる。

 

少し例示が長くなったが、要はシナリオプランニングとは今見えている世界の前提を全て疑うと共に、想定外の変化を想定することが核心である。

これは長い期間その世界に携わっている人には却って難しいことである。固定観念としての世界観を打ち破ることにメンタルブロックがかかるからである。