コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

クライバーン国際アマコン挑戦記(その3)

その2の続きです。挑戦記というより観戦記になってます。
(この記事を書いたのは6/22です)


Jeanne Backofen Craig(46、主婦、米):グリーグ:Notturno from Lyric Pieces, op. 54、ハイドンソナタHob. XVI:52第1楽章、リスト:3つの演奏会用練習曲よりため息
基本に忠実、正統的な演奏。この人は予選もWTC I-18とドビュッシーアラベスクというこのコンクールでは挑戦的な選曲で予選を突破しており、このラウンドの3曲もきっちりまとめてきている。様式感も良い。審査員の評価はそれなりに高いと思うが、他のコンテスタントと較べるとインパクトは弱いかもしれない。個人的にはこの人も好感が持てる演奏。

Thomas Yu(38、歯科医、カナダ):ドビュッシー:水の反映、ショパンスケルツォ第3番作品39、シューマン=リスト:献呈
予選とは打って変わって有名曲を揃えてきており、予選での地球外生命体感は抑えている。水の反映は冒頭から弱音の美しさで魅了。とにかく安定感が高いソリッドな演奏にはため息が出る。スケ3は2音カスッたが、トーマスのミスタッチはむしろその音が正しい音なのではと思わせる感がなくもない(?)。今回の彼のプログラミングは彼曰く審査員に受けるかどうかよりも自分が弾きたい曲を選び、先に亡くした母上に捧げるとのこと。献呈は表題どおりそんな彼の想いが伝わってくる気がした。個人的にはしかし3曲ともあっさり弾きすぎてしまい、彼の本来の強みがあまり表面に出てこない気がした。デュティーユのソナタ3楽章(パリで弾いている)とかプロコの3番のコンチェルト、あるいは今回のファイナル(たぶん進むと思うが今回レベル高いのでセミファイナルのベト32の出来がどうか?)で弾く予定のサンサーンスのエジプト風3楽章、予選で弾いたマッキンタイアといった曲でこそ本領を発揮するのだと思う。そうはいってもコンクールではversatilityをアピールすることも必要ということで実は計算しているのかもしれない。今日のQF第2日を聴けないのでわからないが、第1日のトップ3には入る演奏と思料。ただし個人的にはあまりこのラウンドでの演奏は好きではない。

Deirbhile Brennan(46、会計士、カナダ);ラモー;Gavotte et six doubles from Suite in A Minor、ヤナーチェクピアノソナタ第1番「街頭にて」
下馬評には挙がっていなかったが個人的には今回上位に食い込んでくる人と目している彼女はこのラウンドでも独特な選曲で臨んでいる。アマという表現がまったく似合わない人の一人。ラモーの方がヤナーチェクより彼女らしさは出ている端正な演奏だと思ったが、ヤナーチェクソナタ(マイミクさんの十八番ですね)もなかなか鬼気迫る演奏でよかった。このラウンド通過は確実と思う(第2日を聴けないのにこんなこと言っていいのか?!)。

Simon Finlow(60、元ITエンジニア、米):ショパン:幻想曲作品49、プロコフィエフソナタ第7番作品83第3楽章
サイモンは今回調子が悪かったと見える。先週のPianoTexasにも参加しており、決して準備不足は無いと思うが、らしくないミスを連発し、ファンタジーでは無限ループに入りかねない事故も発生。プロコもクライマックスで左手が数小節完全に飛んでしまった。しかしそれでも止まることなくなんとか弾き終えたところにむしろ彼の実力が感じられた。ごまかす能力も本番では必要。本番後に本人が「やっちまった」と言っていたが、2曲とも事故るとは本当にやってしまったことは変わりなく、惜しい。SF候補と思っていたが、残念ながらこれでは通過は難しいと思う。おつかれさまと言いたい。あとでメールしておこう。

Brianna Donaldson(35、非営利法人勤務、米):モーツァルトソナタ第15番ヘ長調Kv533第3楽章、ショパン:バラード第4番作品52
この人は予選を聴いていないのだが、予選で弾いた2曲のメトネル(フェアリーテール作品20と作品42)はとても良かったらしい(すみません動画もみてません)が、

J. Spencer Thompson(55、医師、米);ラベル:道化師の朝の歌、ラフマニノフ前奏曲作品23第4、ラフマニノフ:音の絵作品39第9
予選ではガーシュウィンの切れのよい演奏がとてもよかったスペンサーだが、1曲目の道化師からして重く、3曲とも明らかな準備不足(強いて言えば23-4は弾けていた方)で、39-9はミスタッチもかなり多かった。彼のセンスは個人的には好きなので通過して欲しかったが、この演奏ではかなり厳しいものがあると思う。

Gorden Cheng(35、システムエンジニア、米):ラベル:水の戯れ、ショパン:アンダンテ・スピアナートと華麗なるポロネーズ作品22
予選の演奏(アベバリとブラームスハンガリー舞曲)はキレッキレで評価もすごく高かったが、今回選んだ有名曲2曲は打って変わって苦労している感がありあり。演奏にも「こんなはずじゃ」感が出てしまっているが、やはり準備不足なのだろう。地元の新聞ではよかったという評もあるものの、SF進出はボーダーではないかと思う。

Noah DeGarmo(38、医師、米);スカルラッティソナタホ長調K380、ショパン幻想即興曲作品66、ワーグナー=リスト:イゾルデの愛と死
わんこ党ということなので期待したが(まったくの余談)、まず選曲からして?という気もしたが演奏聴いてもやっぱり?だった。スカルラッテイも幻想即興曲も丁寧に弾いているという感はあるものの、流れが淀む。幻想即興曲は中間部がなんだかとても印象が薄い。イゾルデの愛と死(マイミクさんの十八番だ)は中でもまぁ良かった方かも。大きな事故はなかったとはいえ、SF進出は微妙かな。。

Colleen Adent(54、主婦、米):ベートーヴェンソナタ第18番第1楽章、ゴットシャルク:パスキナード作品59
この人は予選もこのラウンドもdurの選曲で、彼女の個性を良く発揮できる曲をうまく組み合わせてきていると思う。今回のコンクールでの強者の一人だと思う。主婦とは言え自分が通う教会の音楽監督をやったりピアノを教えているということだし、全身で音楽している感もあり、また何よりエンターテイナーとして聴衆の楽しませ方を知っているという点で今回のコンクールで際立つ存在だと思う。2曲ともソリッドであることは勿論聴いていて楽しくなる演奏で、個人的にはとても好感が持てる。特にベートーヴェンが良かった。一部ひやっとする場面もあったもののむしろご愛嬌。SF進出は確実と思う(第2日を聴けないのでアレですが・・・)。

Tessa Knipe(53、弁護士、米);ショパンスケルツォ第2番作品31、ラベル:水の戯れ
ちょっと夕飯(全力で炭水化物を食べた)に行って会場に戻ったらもう始まっていたのでライブで聴けなかったので評価は差し控えます。動画を見る限りでは確実に着実に弾いている印象。

Summer Stone(39、カスタマーサービス、米):ソレールソナタニ短調R88、ショパン:バラード第4番作品52
ソレールはまあまあだったものの、バラ4(個人的にはバラ4は誰にとってもいかなるコンクールでもかなりのチャレンジだと思う)は明らかに準備不足と思われ、3箇所でまったく流れが途切れてしまった。主題のラインが途切れそうになることや音のバランスの悪さもかなり気になった。そうは言っても完全に演奏が止まることなく前に進めたのはリスク管理という面で○。たとえ暗譜が飛ばなかったとしてもSF進出は無いだろう。

Shinji Wada(40、人事ディレクター、日本);シューマン=リスト;献呈、ラベル:ラ・ヴァルス
個人的には友人だからということを差し引いても本日のトリを飾るに相応しいパフォーマンスでした。献呈ではぼくの前方に座っている老夫婦(といってもそれほど高齢ではないと思うけど)のご婦人が感動のためか咽び泣き(声を殺して)し、隣のご主人が背中をさすり肩を抱き慰めていたのが今回最も印象に残ったことでした。こちらまでもらい泣きです。何かこの曲に想い出を重ね合わせているのかもしれませんが、曲もあると思うものの伝わってくるものがあり、聴いててこちらもぐっときました。ラ・ヴァルスはこのラウンドに進出していればぼくも弾く予定だっただけにクリティカルに見ていましたが、見せ所はすべて決め、様々なワルツの性格をとらえつつも自然な流れを保ち、かつ自身のアレンジも加えた巧みな演出で、とても直前の練習不足を思わせない見事なパフォーマンスでした(もともとかなり弾きこんでいたのだとは思いますが)。地元の新聞にも第1日のハイライトとして名前が挙がった7名に入っているのも頷けます。正真正銘の変態かつ弾けない詐欺です。SFにぜひ進んで欲しいのですが、ひょっとするとラ・ヴァルスが安定感に欠ける(かなりテンポを揺らしていることもあり)と受け取った審査員がいるかもしれないので、(審査員ではない身として当然ですが)評価は差し控えておきます。

・・・個人的にはこんな長時間真剣に(プロアマ問わず)演奏を聴いたのは久しぶりのことです。機会が機会だけにとても学ぶところは多かったし、楽しめました。一方でこれを毎日自分以上に真剣に聴き評価する審査員の方々には頭が下がります(仕事とは言え)。またこの延長で考えると、これ以上長時間朝から晩まで様々なレベルや年齢やバックグラウンドの演奏を聴き評価するステップのアドバイザーの仕事も本当に大変だろうと思いました。ステップに参加する身としてはコメントにいろいろいちゃもんつけたりもしましたが聴いて書く方のご苦労を考えると少し差し控えなければとも思いました。

今回のコンクールは自分にとってはこれで終わりではなく、本日のQF第2日の演奏、次とその次のラウンドの展開も楽しみに、この機会を最大限活かすべく再スタートしたいと思います。
新しい曲に挑戦するというよりも、今回改めて魅力を見直しさらい直したい気も少しありますが(献呈、ショパンの幻想曲、バラ4、スケ2など)、アマコンもあることですししばらく今回のレパートリーに新たな気持ちで磨きをかけることに専念したいと思います。