コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

メモ:移調の限られた旋法(MTL)

今回は音楽理論の復習を兼ね、いま取り組んでいるメシアンの移調の限られた旋法について自分なりにまとめてみようと思います。

メシアンの作曲技法については、自身が「わが音楽語法(原題: Technique de mon langage musical)」に譜例付きで丁寧に解説しています。

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が、お取扱いできないそうです・・・

が、ここに英訳のPDFがありました!

https://monoskop.org/images/5/50/Messiaen_Olivier_The_Technique_of_My_Musical_Language.pdf

移調の限られた旋法は、メシアンがその特性にならって命名した音列で、1番から7番まであります。

その判り易い簡潔な解説はこちら:

メシアンの旋法(モード)について

移調の限られた旋法は原語であるフランス語のmodes à transpositions limitéesの和訳で、頭文字をとってMTLと呼ばれます。

この7つのMTLのうち、1番はいわゆる全音階です。

メシアンが多用した2番(MTL II)は半音と全音を4回繰り返した8個の音から成るものです。

音名で書くと:

C, Cis (Des), Dis (Es), E, Fis (Ges), G, A, Ais (B)

です。これをMTL II-1とします。

これを半音上げる(移調する)と:

Cis (Des), D, E, F, G, Gis (As), Ais (B)

となり、先とは異なるものになります。これをMTL II-2とします。

さらにこれを半音上げると:

D, Dis (Es), F, Fis (Ges), Gis (As), A, H, C

となります。これはMTL II-1ともMTL II-2とも異なるので、MTL II-3とします。

さらにこれを半音上げると:

Dis (Es), E, Fis (Ges), G, A, Ais (B), Cis (Des)

となりますが、これはCで始まっていたMTL II-1の並びをDisから始めたものと同じなので、MTL II-1と同じものになります。

このように、MTL IIの場合は2回しか移調ができない(これに対し長短音階は11回移調できる)ので、「移調の(回数の)限られた」と呼ぶのです。

メシアンは、元の形も1回と数えているので、MTL IIの場合は3回移調が可能である、としています(なんか変ですが大作曲家メシアン先生が仰るので従いましょう)。

 

さてそれでは実例を見てみましょう。

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メシアンの大作にして傑作「みどりごイエスに注ぐ20のまなざし」第10曲

この楽譜の右下の2小節の和音がMTL IIでどう説明できるか、分析を試みます。

この2小節は、明らかに(調号から)A dur(イ長調)を意識し、MTLでその響きをメシアンボキャブラリー/言語で表現しメシアン独特の響きを創り出しています。そしてこの2小節はA durのⅠの和音(主和音)です。

Aを基音とするMTL IIは:A, Ais (B), C, Cis, Dis (Es), E, Fis (Ges), Gです。

1小節目の左手の6つの和音は順に、Cis E A C、B Dis G A、A Cis E、E A Cis Fis、Dis G B E、Cis E A Fisですから全てMTL II|Aの音ですね。

1小節目の右手をみると、最初の装飾音がA Dis、続きE Cis、E Cis、Cis A、Cis A、A E(とこの繰り返し)ですから、左手同様全てMTL II|Aの音ですね。

このように分析し、実際に弾いて響きを耳で確かめ、そしてこのMTLの和音に慣れ親しんでメシアンの語法を体に覚えこませていくプロセスがメシアンを弾きこなすには必要です。

新しく外国語(というよりメシアン的なアクセント(語学上の意味での))を学んでいくようで楽しいですね。英語でもなんでもそうですが、単語と文法だけ知っていても話せるようにはならず実際に使ってみて使いこなせるようになっていくように、音楽でも実際に聴き弾くことの量をこなすことが不可欠です。