少し前のことですが、ある引案件で、腹水をマネジメントする画期的な製品を開発したので拡販をどうしたらできるかという相談がきました。そこで、あらためてこの腹水について調べてみました。
お腹にある臓器をつつむ膜を腹膜といい、臓器と臓器の摩擦を少なくするために腹腔と言う隙間を形成しています。
腹腔には通常20〜50mLの水が入っていますが、がんや肝硬変等疾病の影響で通常より多く貯まった状態を腹水といいます。
治療法としては、軽症であれば安静にしていること、塩分の少ない食事にする食餌療法、利尿剤やアルブミン製剤の投与等の薬物療法が行なわれます。
腹水(英語ではascites)自体が直接的に命に危険をもたらすものではないのですが、それも程度問題で、腹水が異常に多くなると内臓を圧迫し呼吸困難になってくるなど、QOLが著しく損なわれる難治性腹水と呼ばれる状態になります(上記の療法が奏効しない場合)。
こうなると、物理的に腹腔に針を刺して(腹腔穿刺)腹水を抜き取ることが行なわれますが、抜いてもまた腹水が溜まるので繰り返し行わなければならず、これは外科手術なので患者さんに負担がかかります。
1980年代に開発された腹水の治療法に、CART療法というものがあります(最近がん治療で脚光を浴びているCAR-Tとは別物です)。CARTとは、Cell-free andConcentrated Ascites Reinfusion Therapy(腹水濾過濃縮再静注法)の略で、肝硬変やがんなどによって貯まった腹水(又は胸水)を濾過濃縮して、アルブミンなどの有用なタンパク成分を回収する治療法です。
医療機器の世界では、実はこのように未充足医療ニーズがあり、それを充たすアプローチと技術があり、しかも当局の承認を得て診療報酬で費用が償還されるという条件がすべてそろっていながらも、実際には当初の想定ほど売れない、という例は珍しくありません。
原因は真の顧客ニーズの過大評価であったり、マーケティング戦略・戦術の不備によるところが大きいのですが、そもそも製品企画の段階でこの「売れないリスク」を現実的に客観的に評価できていないことが主たる要因です。
確かに、技術的にハードルは低くとも、実際に臨床で使える製品を開発するには医療機器としてのリスクの評価のための試験や承認申請の手間および時間など容易ではないのですが、開発の最も上流の段階でプランニングがしっかりしていれば避けられる問題がほとんどです。
筆者が戦略コンサルタントとして医療機器関連の新規事業開発や新製品開発でいくつかのクライアントが成果を出し実際に製品を上市してロングセラーになって例なども振り返ってみると、やはりそもそもの講義のマーケティングをしっかり行なったことが成功の鍵でした。