今回は、医療の歴史に残る(黒歴史)少し古いキーワードをご紹介します。ロボトミーとはロボットとは無関係で、lobotomyとはlobe(葉)とtomy(切除を意味する接尾辞)から成る単語で、直接的には前頭葉切除術のことです。
あえてシンプルに言ってしまうと、1930年代、未だ現在のような精神障害に対する薬物治療が出現する前の頃、鬱や統合失調症(当時は精神分裂病と言われていましたが)を治療するには、前頭葉を切除してしまえば治ると専門医ですら信じていた時代だったのです。
1935年にチンパンジーの前頭葉を切除したら性格が穏やかになったという知見がきっかけで、同じ年にポルトガルのモニスという医師が人に対してこのロボトミーを施術したところ、症状が軽減されたということで一躍話が広まり、当のモニス医師が後にノーベル医学・生理学賞を受賞するは、日本でも東大病院や都立松沢病院(精神科では日本有数の病院です)でも施術されるなど、当時としては極めて画期的な治療とされたものです。
ところが、現代医学からすればこのオカルトのような手術も、当時としてはそれ以外の治療法は存在せず、わずかな「エビデンス」を基に臨床での応用に至り、その結果不可逆的な深刻な副作用(それはそうですよね。人間を人間足らしめる根幹の臓器が失われてしまうのですから)が、ロボトミーを施術した医師を患者の家族が殺害しようとするなどの事件も発生したことがありました。
いまとなっては中世の医療のように聞こえるこのロボトミーですが、つい最近20世紀に起こったことなのです。
現代の西洋医学においてエビデンスがあり副作用を上回る効果があるとされている治療の中にも、将来から振り返ればこのような運命を辿る治療法があるかもしれません。
例えば広く行われている麻酔にしても、実は科学的根拠は証明されていないという事実があります。