自分が主催する研究会のテーマの話です。
研究会では、テーマ毎に、日本で第一人者とされる方のお話を生で聞いて議論することがもっとも効果的かつ効率的と考えており、何人かお話をうかがう約束をさせていただいているのですが、口腔ケアというテーマでエキスパートを探していたところ、小山珠美先生の名前が挙がりました。
先生の最新著書はこれです:
これはまさに目からうろこの本でした。
先生自身、口腔ケアの専門家ということではないのですが、それどころではなく、私もすっかり忘れていたというか見過ごしていた視点を思い出させてくれると共に、食べることというのが如何に重要なことかをあらためて思い知らせていただきました。
食べることが重要だ、と言われると、「あたりまえじゃないか」とみなさん言われるでしょう。
しかしそう答える方々の何%が、どのくらい重要であるかを理解されていることでしょうか。
特に、患者さんにとっての意義がどれほどのものかを理解されているでしょうか。
この小山さんの本を読んで最も「はっ」と感じたのは、「患者も生活者である」という一文でした。
その他にも重要な気づきを与えてくれた記述がたくさんあります。とりわけ:
- 重度の脳梗塞で四肢麻痺の方が口から食べるリハビリで(医者も驚く)回復を遂げ、退院時には杖をついてではあるものの自分の足で帰った
- 食べることは命の根幹であり、それを剥奪されている福祉社会などあってはならない
- 悲しい現実ではあるが、病院側の人間にとって胎児なのは、患者さんの幸せよりも医療安全、つまりトラブルが起きないこと
- 現在の嚥下障害の診断は、食べる練習をする機会を十分に与えられず、つらい検査によって下されることがほとんど
- 医師をトップにおく組織図とチーム医療の組織図は違う。前者はヒエラルキーでも後者はフラットであるはず
- 現在の医療は食に関しては課題が山積しており、伝承すべき食事介助の技術が伝えられない構造になっている
- 患者を臓器ごとに捉える医療ではなく、人として捉えなければならない
などといった記述です。これ以外にも患者さんや患者さん家族の言葉や、小山先生の協力者である医師や看護師の方々の言葉も豊富にリアルな形で盛り込まれており、ひとつひとつに「なるほど」と思わされることばかりです。
小山先生は自らNPO法人も立ち上げられ、口から食べることの医療における重要性を広く訴える研修や講演を全国でなされており、また医療を変えるのに必要なエビデンス構築にも力を入れておられます。
たとえばこのような論文を出されています:
ふと思ったのは、新しい治療法(医薬品や医療機器)はますますその経済性の評価が問われており(医療経済評価)、たとえばよく使われる医療経済評価指標としてQALY(quality-adjusted life year、質調整生存年)が使われ、このQはQOL(quality of life)を意味し、「最も健康」な状態を1、死を0としてその中間はどれだけ「普通の」生活ができるか、どれだけ移動できるか、痛みや不安はどうかといった尺度で評価されますが、小山先生の言われる「食べることは命の根幹」であり「食べることによって疾病からの回復力が増す」という視点に立てば、QOLの尺度に明示的に「口から食べられること」があり、しかもそのウェイトは高いものであるべきでしょう。