我々日本人の未来がかかっている最重要の保健医療システムの進むべき方向性を指し示す「保健医療2035」シリーズ3回目は、前々回(1)の現状認識、前回(2)の改革の方向性=パラダイム・シフト、を経て2035年のあるべき姿編です。
(1)はこちら:
(2)はこちら:
「保健医療2035」では2035年に日本の保健医療システムがあるべき姿を大きく3つの柱でまとめています。
ぼくなりに絵にしてみたものがこれです:
3つというのがポイントです。なにかをわかりやすく説明するときに、「3つあります」というのはとても効果的です。「いろいろあります」はNGです。3はマジックなばーです。コンサルタントの鉄則でもあります。
ただこれだけではどういうことなのか抽象的過ぎるので、保健医療2035の提言からこの3つの柱について引用しますと:
1.リーン・ヘルスケア 〜保健医療の価値を高める〜
・ 医療提供者の技術、医療用品の効能など(医療技術)を患者の価値を考慮して評価し、診療報酬点数に反映
・ 医療機関のパフォーマンスの見える化とベンチマーキングによる治療成績の改善
・ 地域のデータとニーズに応じて保健・医療・介護サービスを確保
2.ライフ・デザイン〜主体的選択を社会で支える〜
・ 2035 年までに「たばこフリー」社会を実現
・ 電子健康記録に介護サービス情報を含めた個人レベルでのポータブルな情報基盤の普及・活用を支援
・ 住民が健康・生活上の課題をワンストップで相談できる総合サービスの充実
・ 健康の社会的決定要因を考慮したコミュニティやまちづくり
3.グローバル・ヘルス・リーダー〜日本が世界の保健医療を牽引する〜
・ 感染症の封じ込めや災害時の支援など健康危機管理で国際的に貢献する機能を大幅に強化し、世界の「健康危機管理官」としての地位を確立
・ 政府、自衛隊、NPO や市民社会などと連携した保健安全保障体制の確立
・ 地域包括ケア等の医療・介護システムの輸出
・ 国際機関などによるグローバル・ヘルス・ガバナンスの構築への貢献
具体的になってきましたね。
ただぼくに言わせれば「惜しい」のです。
我々コンサルタントがあるべき姿、ビジョンを策定する際、そこに書かれていることはある状態であって、何かをしていることではないのです。個人の目標設定にしてもそうですよね。たとえば勉強にしても「教科書を読んでいる」は目標ではありません。「高校の教科書を理解できている」なら目標になり得ます。
なので、「反映」「改善」「充実」「まちづくり」「輸出」「貢献」で終わっているものはいずれも「教科書を読んでいる」的な表現にとどまってしまっています。「反映」した結果として医療経済的評価がどこまでできており、その結果医療サービスと我々個人、或いは医薬品メーカーや医療機器メーカーがどうなっているのか、ということに関する記述がないと「あるべき姿」を描いたことにはなりません。「改善」もそうです。どこまで改善され、何がどう変わっているのかを書かないと、プロセスの記述に終わってしまっています。
いやきっとこの提言の議論の中ではそれらの姿が描かれていたのでしょう。しかしこれが広く読まれるものであり、様々な利害関係者のことを配慮した結果、この表現に落ち着いたものと推察します。
なかなか難しいですね。
(つづく)