コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

矛盾にこそチャンスがある

ビジネスチャンスを見つけるには矛盾に着目するとよい。

 

たとえば、ノンアルコールビールはアルコールは飲めない(或いは飲んではいけない)けどビールを飲みたいという(従前の)矛盾を解消することで生まれた商品。

 

元来の「何でも突き通す矛と何によっても突き通すことのできない盾」ほど厳密ではなくとも、一見相容れない性質を工夫や新たなテクノロジーによって解消できれば、新たな商品やサービスになる。

 

電話が発明される前は遠くの人と会話できなかったし、新幹線が開通するまでは東京から大阪へ日帰り出張もできなかったように。

 

メイクは簡単に落ちては困るが落とせなくても困る。

抗がん剤の多くは効いたとしても副作用が強い。

 

まだまだ矛盾はあるし、新たな矛盾も生まれる。

ビジネスチャンスは至るところにある。

【読書メモ】1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法

米系戦略コンサルティングファーム時代の聡明な先輩が良い本であると言っていたので読んでみたが、あらためて思う。実際にこれは読むべき本である。

 

1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法

1日3時間だけ働いておだやかに暮らすための思考法

 

 

以前にもこの本の読書メモを投稿したが、今回あらためて通読して価値を再確認した。

著者は山口揚平さん。ファイナンシャルアドバイザーのキャリアから、今は経営者以外にも投資家や劇団経営など多彩に活躍されている方である。

この本は、タイトルを誤解してはいけない。1日3時間、やおだやかに暮らす、がメインテーマではなく、思考法がメインテーマである。

彼が言う思考とは人間にとって最も重要な能力であり付加価値の源泉であって、決してAIに代替されることのないものである。常日頃自分が考え、クライアントや周囲に(昨日も)説いていることである。

その思考法だが、彼の定義によると、考えるとは、「概念の海に意識を漂わせ、情報と知識を分離・結合させ、整理する行為」である。

そして、考えることは最も「コスパの高い」行為である、とも。

大いに同感である。

自分が研修(社内外で)「10倍のスピードで仕事する戦略コンサルタントの仕事術」をインタラクティブに講義する際のエッセンスもこれである。

 

この本の良いところは、自分がかならずしも形式知化していないことを、文章やダイアグラムで快刀乱麻に明快に惜しげもなく提示していることである。

彼はもはや戦略コンサルタントではないが、戦略コンサルタントは知を出し惜しみしてはいけない。この点は大いに学ぶべきものがある。

戦略コンサルタントが使いこなせなければならないロジックツリーや要因連関図などに加え、彼が詳述しているが二項対立である。

二項対立とはたとえば、原因と結果、短期と長期、量と質、過去と未来、政敵と動的、といったことであり、善と悪といった価値観を伴うものではなく、また両断論法とも異なる。

 

最後のむすびが良い。

パスカルがパンセの中で「人間は考える葦である」と言ったのは良く知られているが、その本意は、「人間とは広大な宇宙と比べれば小さな葦にすぎないが、人間にはその宇宙より大きなものを考える力がある、という意味である

 

大いに勇気づけられ、学びがあると同時に、自分が考えてきたことを明確に裏付けてくれる良書でもある。

 

新規事業は失敗しない

新規事業は失敗しない、と言うと「何をバカなことを」と思われるであろう。

新規事業は難しい、と思われる方がほとんどであろう。

今までお会いした経営者の方々の中には、新規事業を諦め、既存事業の軌道修正だけで充分だとおっしゃる方もおられた。それはそれで一つのスタンスであり、あえて否定はしない。

市場を見ていればしかし、至るところに新規事業のネタはある。

今の商品・サービスに常に妥協を強いられているのが顧客というものであるという視点だ。

ニーズとかウォンツではない。

妥協である。

顧客自身も気づいていない場合が多い。

今の商品・サービスの代替案を示して初めて明らかになる、顕在化する妥協がある。

この視点で常に顧客を理解することだ。

かつて支援したクライアントが10年以上売れ続けているロングセラー商品が生まれるに至ったアプローチもまさにそれだ。

 

別の視点として、失敗の定義がある。

「失敗というものはない。学びならある。」という言葉がある。

検証したい仮説がまずある。新しい商品もサービスも事業も仮説に過ぎない。仮説は検証し進化させるべきものである。失敗とみなした時点で仮説検証プロセスが終わってしまう。

 

ビジネス・インテリジェンスとは

いま、クライアントのBI導入のお手伝いをしているので、ビジネスインテリジェンスについて少し語ってみたいと思う。

BIという言葉が日本で人口に膾炙するようになったのは2年ぐらい前からだと思うが、実は10年ほど前から自分はコンサルとしてビジネスインテリジェンスという言葉を使っていた。

10年前、ある大手日本企業の戦略策定能力強化のプロジェクトのプロマネをしていたのだが、クライアントのカウンターパートである経営企画担当役員副社長がご賢察だったのは、世界中の異なる拠点で戦略策定・遂行能力にばらつきがあり、底上げをすると共に、経営資源配分の意思決定(経営とは経営資源配分に他ならない)を経営者として行なえるようなツールが欲しいということだった。

以前幹部として勤務していたGEは世界中どの拠点でもどのビジネスでも同じ枠組で戦略を策定し計画を立て、進捗をモニタリングすることができている。

これをヒントに、クライアント向けに、どの国でもどのビジネスでも共通の枠組を作ることにし、クライアントの企画担当者や現場の方々にたたき台をぶつけ、これならいける、となったところで全世界約20拠点に展開した。

自分も実際にアメリカや中国の拠点に赴き、この枠組をどう使うかを説明し、やはりこれは使えると確信し、実際にクライアントも評価してくれた。

この枠組で重要なのは、予算の進捗・達成状況を見ることができることではなく、どう予算を作るか、である。

世の中のBIツールと言われるものは、異口同音に「可視化によって経営意思決定を可能とする」とうたっているが、確かにビジネスレビューでそれは重要なのだが、そもそも予算は、あるいは計画は、どういう情報に基づいてどう作成したか、前提とロジックが明確でなければ、実際のオペレーション結果が予算と乖離した場合に、何を修正したら良いかがやはり不明確になる。

事業計画の前提が間違っていたのか、それとも計画策定段階とは事業環境が変化したのか、事業環境の前提は変わっていなくとも自社の状況に変化があったのか、あるいは単にミスを冒しただけなのか、の判別ができないのである。

ビジネス・インテリジェンスとは、これは自分の定義であるが、「ダイナミックに変化する事業環境を的確に把握できる組織能力」である。

いくら洗練された可視化ツールがあっても、取りに行く元のデータがゴミだったら可視化した結果もゴミである。garbage in, garbage outである。

優れたBIツールあるいはシステムとは、経営者が的確な判断をするにはどういう分析をどう見せるかではなく、どういう情報を取りに行けばいいのかを判断できるようなものでなければならない。

ビジネスにおいて、本当にクリティカルな情報は、まずウェブ上で収集できるようなものではない。

GEでも営業と共に顧客を訪問したり、またコンサルとして営業生産性向上プロジェクトをいくつもやったことがあるが、営業の前線にこそ生きた得難い情報があり、デキる営業は頭脳と五感を駆使して必要な情報を取りに行く。

彼らは、客に対して的確な情報を提供することでしか得られない客の本音を聞き出し、営業先で競合の営業の動きや出入業者の動きなどからも事業環境を把握するために必要な情報を鋭い観察眼でキャッチする。競合の営業と仲良くなっていたりもする。

こういう「デキる」営業、あるいは営業でなくてもマーケティングであってもいいのだが、とにかく事業環境およびその変化をタイムリーに察知することができる組織、察知した情報を元に適時に的確な意思決定ができる組織、そのような組織こそがビジネス・インテリジェンスの高い組織なのである。

オートメーションすべきところはどんどんオートメーションすべきであるが、ビジネス・インテリジェンスの核心のところはオートメーションできない。仮にそのようなビジネスがあったとすると、それは早晩コモディティ化するビジネスであろう。ほとんどのビジネスはやはり人間の知恵と行動が必要であり、その領域にこそ人間の使う時間を集中的に使う。これも経営資源配分である。そのために付加価値の低い作業はどんどんテクノロジーを活用して自動化なり効率化すべきである。

働く人が楽になり、かつ同時に生産性も上がる。組織能力も高まり事業は成長し収益性も高まる。これこそがテクノロジーの使命であり、経営者が意識し実行すべきことなのである。これからもそういうお手伝いをしていきたいと思っている。

ヨハネの黙示録を理解する

The Bible Projectの動画を引き続き移動中に見ています。

新約聖書の最終巻はRevelations。日本語ではヨハネの黙示録と呼ばれています。

黙示録は英語のRevelationsの訳ではなく、ギリシャ語のタイトルであるアポカリプスの訳です。

この巻が書かれたのは紀元1世紀と言われていますので、2,000年近く前ですが、ヨハネという人がアジアの7つの教会に神のメッセージを伝える下りから、最後に「新エルサレム」という天と地が一つになった平和と調和の国が建てられるまでが22章にわたって書かれています。

The Bible Projectは、各巻のストーリーを一つの図(infographic)にまとめているところが見事です。

黙示録を一枚にまとめたスクショがこれです。

f:id:jimkbys471:20190512065222p:image

全22巻は前半11巻と後半11巻に分かれ、各章のハイライトやキーワードがイラストと共に示されているのが白眉です。

また、ヨハネの黙示録に関しては、千年王国アルマゲドン等、歴史上様々な解釈がなされているところについては、The Bible Projectはあえてどの解釈を支持するということもなく、原書に忠実に客観的に要点を述べているところが良いところです。

前半の8~16巻では、3セットの7つの審判、すなわち七つの封印(これを子羊だけが解ける)、七つのトランペット(ラッパ)、七つの杯(神の怒りで満たされている)が出てくるのですが、どうしてもスクリャービンの白ミサの総小節数343(=7x7x7)との対応を思わずにはいられません。

また、ヨハネの黙示録は聖書の中で唯一預言的な性格を有する巻ということですが、これについても様々な解釈があるようです。

古今東西ヨハネの黙示録を題材に多くの小節、映画、絵画などが作られているのもこの巻のドラマティックな内容からしてまったく不思議ではありません。

大体あらすじは理解できたので、とっつきにくかった英文の原文を読んでみたら、割とすんなり情景を想像しつつ読むことができました。

それにしてもこれは激烈な巻です。

天使がラッパを吹くと星が落ちてくるとか、神の怒りに満ちた杯を傾けると太陽の1/3が欠けるとか、海が血になり海中の生物が絶滅するなど、SF映画など目ではありません。

そして最期には天と地が統合した、2,220km立方(そう。平方ではなく立方)の新エルサレムが出現します。

聖書はドラマティックです。

ドリームジャーナルをつけてみる

先週開始した思考力向上のオンラインコースで、創造的思考を鍛える一つの方法としてドリームジャーナルをつけることが挙げられていたのでやってみる。

 

高速道路を車で走っていた

長いゆるい上り坂を走っていた

道幅がどんどん狭くなっていく

いつのまにか自転車をこいでいる

行き止まりだ

鉄塔の上で止まった

鉄塔がぐらついた

金属のブロックをただ積み重ねただけのものらしい

下を見ると100mはある

 

ここで目が覚めた

【読書メモ】日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)

目下参画している社外研究会の活動の一環としてソフトパワーに関する文献調査をしていたところ、標記の図書に出会った。大変参考になったので、次回研究会の会合の際にメンバーに内容と共に共有することにする。

 

日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)

日本人も知らなかった日本の国力(ソフトパワー)

 

 

著者は川口盛之助さんという自称未来学者。氏のウェブサイトにはこのような自己紹介がある:

株式会社 盛之助代表。慶応義塾大学工学部卒、米イリノイ大学理学部修士課程修了。日立製作所を経てアーサー・D・リトルに参画。各種業界の戦略立案プロジェクトに広く携わり、同社アソシエート・ディレクターを務めたのちに、株式会社盛之助を設立。国内のみならずアジア~中東各国の政府機関からの招聘を受け、イノベーションブランディングに関するコンサルティングを行う。技術とカルチャーを体系的に紐付けたユニークな方法論を展開し、著作「オタクで女の子な国のモノづくり」は「日経BizTech図書賞」を受賞。世界4か国語にも翻訳される。近著「メガトレンド」シリーズでは、精緻で広範な未来予測の方法論を展開し、ビジョナリストとして各界で高い評価を受ける。同書の世界観をベースにした文部科学省の将来社会ビジョン策定プロジェクトや、自由民主党の「国家戦略本部」 におけるビジョン策定などにも携わる。

戦略コンサルティングファームのアーサー・D・リトル・ジャパンでアソシエート・ディレクターを務めたのちに(株)盛之助を設立。国内のみならずアジア各国の政府機関からの招聘を受け、研究開発戦略や商品開発戦略などのコンサルティングを行う。近「メガトレンド 2014-2023」では、独自の方法論から導き出す精緻で広範な未来予測分析を行い、各界で高い評価を受ける。同書の世界観をベースにした文科省の将来社会ビジョン策定プロジェクトや、自民党「国家戦略本部」 におけるビジョン策定などにも携わる。

 

もともとは戦略コンサルタントとして同業であり、未来予測を得意とされているというところに親近感を感じる。

それはさておき、氏はGNT(Gross National Talent)という新たな概念を提唱し、またこの書において定量化と国際比較を試みておられる。意欲的である。

 

まえがきの冒頭にこうある:

「本書は、さまざまな専門分野における才人たちの活躍ぶりについて国籍別に定量分析を行なうことにより、日本の「お国柄の可視化」を試みた、まったく新しい日本文化論です」とある。

おもしろい。

また、日本が必ずしも得意でない分野でどのようにしのぐか、その「処し方」が9パターンあると喝破しているところもすばらしいです。

それら処し方とは:

  1. 非力ゆえ正面対決を避ける:「柔よく剛を制す」作戦
  2. 前に出ず、裏方さんの「大道具役」を担う:「草鞋を作る」作戦
  3. 外国語の不利を、言語価値を希釈することで解決する:「非言語化」作戦
  4. 競合が少ないうちに早期参入する:「サブカル流行先取り」作戦
  5. 金儲け色が強くなると食傷気味になって撤退:独り遊びに走る「オタク趣味人」作戦
  6. 勝ち方や競技自体の趣旨に美学を求める:「武士道」作戦
  7. エリートよりも一般市民のレベルの高さで勝つ:「民度で勝負」作戦
  8. 牽制し合う欧州と米国の両方で活躍してポイントを稼ぐ「ノンポリ二股」作戦
  9. どの分野にも首を突っ込み総合成績で勝つ:「子供のような好奇心」作戦

巻末のまとめには、GNT評価結果があり、25か国の国別のランキングが分野別と総合点で表になっている。

上位10位は、1位米国、2位英国、3位フランス、4位ドイツ、5位日本、6位カナダ、7位オーストラリア、8位イタリア、9位スイス、10位スペインという結果になっている。

GDPのようなハードパワー的指標と対照的な内容でありながら、経済大国が上位に来るのはまぁ当然と言えば当然であろう。

 

自分が参画する研究会ではしかし、このような指標よりも上記の「処し方」の方が重要である。そして、個々の分野で勝つか負けるかではなく、国として国際社会に影響力を行使することができるかがテーマなので、この書にある分析を一つの材料として参考にしつつも、「で、どうする」を提言しなければならない。

世界リレー男子マイルリレー

横浜で開催された世界リレー、男子1600メートルは日本は決勝に進出、4位となった。

陸上男子短距離種目の中で自分が最も好きな種目である。

手に汗握るとはまさにこのレースのことだ。

予選ではアクシデントに見舞われながら見事着順で決勝に進出。

決勝では強豪チームと競り合い、最後のバックストレートではベルギーに抜かれるも、4人とも攻めた。

やはり日本人の活躍はうれしい。

若手チームだけに大いに期待したい。

 

 


 

ソフトパワー

日本という国の未来を考える研究会に参加している。

世界に日本が何ができるか、その源泉は何で、どのように付加価値をもたらし、新たな国際秩序形成においてどういう力をどれだけ及ぼして、日本の国際的な位置付けを確固たるものとし、結果として日本国民が幸福になるにはどうするか、というテーマであり、自ら志願して参加させていただいている。

経済力という指標や軍事力という力の行使ではなく、ジョセフ・ナイの言うソフトパワー的な力ということになるかもしれない。

あるいはソフトパワーの定義そのものではなく、この研究会で新たに定義することになるかもしれない。

既にGDPや軍事力や科学技術力のみならず国力を測る指標は多々あるが、既存の指標ではなく新たな指標の定義も必要であろう。

観光立国とか、アニメやゲームといったもので日本の価値を示していこうという落としどころでもない。

では何か。

次回はアイデアを各自メンバーが持ち寄る会合である。

楽しみだ。

シナリオプランニングの核心

これまでに何度かシナリオプランニングをコンサルティングプロジェクトとして実施し、またあらためて今般もシナリオプランニングを複数件相談されている。

シナリオプランニングとは、元々は大手石油会社であるシェル(Royal Dutch Shell)が、企業戦略の策定の為に行ない、その手法が認められて広まり、日本でも定着しているものだ。

シナリオプランニングについては多くの参考書が出ているが、知人でもあり母校(米国のビジネススクール)の先輩である西村さんのこの本をお勧めする。

 

最近これとは別にリスクマネジメントのプロジェクトを成功裏にやり遂げたが、戦略策定のためのシナリオプランニングとリスクマネジメントは極めて近い関係にある。

共通なのは世界観である。

世界観というのは自分が好きな言葉であるが、定義を明確にしておかないといけない。

自分を取り巻く環境をどこまで広くまたどのように自分が見るかである。

人それぞれ世界観は違う。また自分の世界観も変わる。

 

さて、シナリオという名の複数の(これまでとは異なる)世界観を作るポイントは何か。

まず、今の世界観を形成する要素を洗い出し、その要素の前提を疑うことから始める。

たとえば、うつ病の薬を開発し販売するという事業を例にとってみると、なぜその事業が成立するかと言えば、

売上高=潜在患者数×病識がある患者の割合×受診する割合×薬を処方される割合×自社の薬のシェア×投薬回数(一日当たり錠数×期間(日))

があり、かつこの薬が売れる期間の売上高から、薬の開発費+製造費(原材料費を含む)+営業・マーケティング費用+物流費=総費用を引いた粗利が少なくとも販管費をカバーしなければならない。

現在の世界観の中でも、全ては変数であり、それら変数には自社でコントロールできるものとできないもの、またコントロールできるにしてもコントロールする限界がある。

シナリオのドライバーを特定するとは、この現在の世界でコントロールできる変数がコントロールできる範囲で変化する程度のものではなく、もし(what if)現在の想定を大きく超えて変化したらどうなるか、あるいは新たな変数が現れたらどうなるか、を考えることである。

たとえば売上高の因子である、「薬を処方される割合」が大幅に減ったらどうなるか。うつ病など精神疾患の薬には大きな問題が指摘されている。副作用もそうだが、そもそも効かないのではないか、という指摘である。

そこで代替治療法として今アメリカを中心に注目され既に市場に出ているのが、デジタルメディスンと呼ばれる、アプリを用いた治療法である。これまでにも認知行動療法というものがあるが、スマホ等のアプリはうつ病患者の認知・行動を変容する上で効果があることが医学的に認められてきているのである。最も、完全に代替するとは限らず、薬と併用する治療法もある。

これまでは代替されなかったものが、テクノロジーの進歩により代替される脅威が顕在化することは往々にしてあることだ。

或いは、疾患の定義そのものが変わり、従来の治療法があまり有効でなかった理由が判明し、治療の選択肢が変わるかもしれない。アルツハイマー認知症と診断されていたものがそうではない可能性があるという研究結果も発表されたばかりである。これが正しいとすると、これまで存在していた市場が突如消滅する、あるいは消滅しないまでも大幅に縮小することはあるかもしれない。

遺伝子診断がより進化し、ある抗がん剤が特定の遺伝子型の患者にしか効かないことが判れば、奏効率が高まる一方で対象患者数は当然ながら大幅に減る(たとえば2割)。既にこれは上市されている抗がん剤で起きていることである(最もとても高額なのでそれでも市場は莫大だが)。より精密な診断で特異性が高まれば、さらに市場は小さくなるだろう。

もともと「人間の数だけ病気はある」という考え方もある訳で、そうなるとますます医薬品市場はロングテール化する。

医薬品に限らず、personalizationが進む消費財の世界では既にロングテール化は起きている。そうなると従来のマーケティングの考え方にある「ボリュームゾーン」は消滅してしまい、事業モデルの抜本的な見直しを求められる。

 

少し例示が長くなったが、要はシナリオプランニングとは今見えている世界の前提を全て疑うと共に、想定外の変化を想定することが核心である。

これは長い期間その世界に携わっている人には却って難しいことである。固定観念としての世界観を打ち破ることにメンタルブロックがかかるからである。