コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

TCFD対応はどうするか

某日本企業(大企業)から相談が来た。

TCFD対応に悩んでいるのだという。

TCFDとは、世界経済の安定を図るための国際組織である金融安定理事会(FSB:Financial Stability Board)のもと組成されたTCFDの最終提言(Final Report: Recommendations of the Task Force on Climate-related Financial Disclosures(気候関連財務情報開示に係る提言))のことである。

またもや企業への新たな情報開示要求である。

上場企業には、既にCSRやらサステイナビリティレポートやら統合報告書やら、さんざん要求されているところに、またもやコストアップ要因が加わることになる。

したがって、ただ単に情報開示要求対応するだけでは実益が無い(機関投資家の評価が若干上がるだけのこと。株価が上がるとは限らない)。

TCFDは、これまで現代人が見たこともない世界をどう見るかを問うものである。

新たな世界観を形成する契機とすべきである。

企業の超長期ビジョンをその上で作り直し、戦略を策定し、資源配分を見直し、組織能力を高めることを要請するものである。

決してIRに限定して形式的な報告にとどめて済む話ではない。

宇宙と宇宙をつなぐ数学(加藤文元)を読んでおもったこと

加藤文元さんの宇宙と宇宙をつなぐ数学を読んでいて思い浮かんだ名言がある。

 

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

宇宙と宇宙をつなぐ数学 IUT理論の衝撃

 

 

アインシュタイン(Albert Einstein)が言ったという一言である。

 

We cannot solve our problems with the same thinking.

 

意訳すると、「私たちが抱えている創り出した問題は、私たちがそれを創り出したのと同じ次元の思考では解決できない」となる。

これを教科書的に直訳して「私たちは私たちの問題を同じ思考では解決できない」としては意味が通じない。「同じ思考」の何が同じかがわからないからだ。

つまり、問題解決のためには思考の次元を上げろということである。

さらに連想すると、広中平祐さんの「特異点解消」も思いついてしまうが、それはさておき、加藤文元さんがこの著者で取り上げているIUT理論構築の契機としてIUT理論の構築者である望月新一教授の前に立ちはだかった問題はABC予想である。

ABC予想は足し算と掛け算から成る問題であり、それがその予想を世紀の難問としている所以であるとのことだ。

代数学という宇宙の次元では解けないことに、望月さんは徹底的に研究した結果行き当たってしまい、それ故に新しい数学としてのIUT理論構築を決意したということだが、これはすなわち自分がいる宇宙という世界より高次の次元の視点で問題を捉えていると言っても良いのではないか。

そしてそこから見て初めて見えた別の宇宙に解決のヒントがあるかもしれないし、元の宇宙に実は解決法があるかもしれないが、いずれにしても重要なのは高次の視点を、スコトーマを外して見ることにあるように思えてならない。

ペレリマン数

加藤文元さんの著書「天に向かって続く数」にペレリマン数という数が出てくる。

 

天に向かって続く数

天に向かって続く数

 

 

数学の世界に「~数」という数は多く存在するが、ペレリマン数は中でもとりわけ興味深い性質を持つ数である。

n P_n Q_n P_n+Q_n
1 5 6 11
2 25 76 101
3 625 376 1001
4 625 9376 10001
5 90625 9376 100001
6 890625 109376 1000001
7 2890625 7109376 10000001
8 12890625 87109376 100000001
9 212890625 787109376 1000000001
10 8212890625 1787109376 10000000001

 

最初のn=1の場合、5の二乗は25、6の二乗は36、いずれも一の位は元の数と同じである。

次のn=2の場合、25と76を二乗した625と5776の下二桁は元の数と同じである。

以下同様。

しかも同じ桁数でこうなるのはそれぞれ2つしかない。

これをみて、「ふーんおもしろいね」にとどまらず、どんどん桁数を増やし、そこにどういう構造や法則があるのか考えずにいられないのが数学者や数学マニアである。

加藤文元さんが数学の世界に本格的にのめり込むきっかけもこのペレリマン数だったという。

全ての〜数に深遠な意義がある訳ではないが、ペレリマン数の場合はそれがp進数という現代数学できわめて重要な役割を果たす数体系と関係する意味において際立った意味を持つ。

自分もこの魅力に出会ってしまったので、引き続きp進数を学ぶことにする。

The Bible Projectが面白い

聖書の勉強を始めて10日ほど経つ。

Kindle版のHoly Bibleをダウンロードして読み始め、一方で図書館で日本語の聖書入門書をいくつか読んだりしているが、最も勉強になっているのはThe Bible ProjectのYoutube動画である。

移動中でも聴けるので(本当は視た方がよいのだが)重宝している。

たとえばこれ:

https://www.youtube.com/watch?v=kOYy8iCfIJ4

旧約聖書士師記(Judges)の解説である。7分半ほどの短い動画だが、聖書の全ての巻(旧約39、新約27)の一つ一つを7~8分でわかりやすい動画付きで2人が対話する形で説明しているのがとても良い。

どの動画にも共通しているのは、ただ内容を説明するだけではなく、なぜそれが重要なのか、なぜこの巻を読む必要があるのか、を説得力のある形で説明していることである。

このYoutubeチャネルが130万人もにsubscribeされているのもうなずける。

各巻の説明とは別に、神とは何か、聖霊とは何か、といったトピック別の動画もあるので、さらに理解が深まる。

キリスト教徒でなくとも、西洋の思想や文化を理解する上でとてもよい(というかこれが自分の目的なのであるが)。

アンサンブルの醍醐味というもの

昨日はシューマンのピアノ協奏曲3楽章をオーケストラと共演させていただきました。

これまでオーケストラともまた2台ピアノでも何度も演奏させていただいているのですが、今回初めて、「協奏」する醍醐味というものを感じることができました。

いつも厳しい指摘をいただいている師匠からは、3月初旬にレッスンを受けたときからのアンサンブル力の向上が認められ、一層上を目指してくださいとのお言葉もいただきました。

別の先生(ピアニスト)からは、「あらゆるピアノ協奏曲の中でも弾きにくいテクニックが詰まっている曲であると思います」と前置きを置かれたあと、手首の返しや落下を駆使した奏法を取り入れることで抜けのよい音が作れるでしょう、と貴重なアドバイスをいただきました。

自分が弾いた部ではピアノは自分だけで、あとは声楽、管楽器、バイオリンとオーケストラの共演でしたが、いずれも心のこもった、個性豊かな演奏で心に残りました。

 

練習では本番当日まで苦闘していたシューマンですが、本番は細かいことを気にせず、のびのびと大らかに演奏しようと決めていたことは、共演した指揮者の方にもわかっていただけたようで、スケールが大きく良かったと言っていただいたのもうれしかったです。

本当に難しい曲ですが、ようやく光が見えてきた気がします。そして、この曲に取り組むことで、自分の音楽に欠けていた何かがわかったことも大きな収穫でした。

【読書メモ】宇宙と宇宙をつなぐ数学(加藤文元著)

昨日の投稿に続き、加藤文元先生の近著を早速購入し一気に読んだ。 

amzn.to

jimkbys471.hatenablog.com

 

内容自体は昨日見たニコ動とほぼ同じではあるが、動画では触れられていない、やや技術的な内容や、いくつかとても共感できる考え方にも遭遇でき、きわめて有意義であった。

特に共感できたポイントはたとえば:

数学は異種格闘技戦である!

である。

コンサルティングという仕事を始めた頃から、同僚たちと常々語っていたのが「コンサルティング異種格闘技」ということだ。

企業の経営者を説得するのに必要なロジック、データを駆使する上で、歴史的な観点、統計、ビジュアルな表現技法、話法、と様々な領域にわたる知識・スキルを駆使する仕事であるからだ。

数学にも様々な専門分野があり、問題を解くにあたって一つの分野の理解だけでは不足であるということを言われている。

 

また、こうも言われている:

応用vs純粋という安直な二分法は、すでに時代遅れです。

これにも大いに同意である。自分は特に「両断論法」を嫌う。

理系vs文系というのもそうだ。自分が建築専攻だからということもある。建築というのは一般的にはアートの一種と巷ではみなされているが、その構造は極めて精緻に工学的に分析し構築されているものであり(自分の専攻はこっちのほう)、時として構造そのものが建築物の意匠(デザイン)になっていることもある。

アントニオ・ガウディサグラダ・ファミリアの構造が懸垂線を基本にしていることはよく知られているが、懸垂線は自然に建物の自重を流す数学の曲線である。

数学の応用と純粋に関しても、昨日の投稿でも少し述べたが、「実用」とはそもそも何かをまずは問うべきであって、それは人間の知とは何かということにもつながる。仮に「純粋数学」という範疇があったとして、それが「実用的」(一般的な意味での)でないとは思わない(昨日述べたとおり)。

加藤先生は、数学の理論が「実用」に供されている例として、楕円関数、ブラック=ショールズ方程式(伊藤積分と確立微分方程式から導かれたオプション価格決定式)、誤差逆伝播法等を挙げられており、自分もリアルオプションの評価の際にブラック=ショールズを用いたことはある。コールセンターのオペレーション改善に待ち行列を使ったこともある。ただし、仕事で使う数学はほとんどの場合きわめて初歩的な「算数」レベルで十分なのではあるが・・・

 

そして、IUTに関して何がmost significantかというとそれは従来の数学のアプローチとは異なりながらも自然なアプローチを構築しよつとしているところにある、という点にはやはり驚嘆を覚えずにはいられない。rigidな数学の世界では解決できないいくつかの重要な予想の解決はIUTという画期的なアプローチの端緒に過ぎないという点についても、もちろんIUTが何たるかは判らないものの、その姿勢に大きく勇気づけられた。

 

自分としては、IUT以前に先日取り上げたp進数、或いは群論、他にも自分の知を増幅し、仕事の上でも新たな視点・アプローチを開発することに寄与するであろう考え方が数学には多くあることを感じており(黒川信重先生と加藤和也先生の本は読みかけだが😥)、その意味では自分にとって数学はとても「実用的」だ。

 

加藤先生とは直接の面識はないのだが、自分が理事を務める研究所の研究会でもご講演いただいたり、何かしら縁はあるようなので、いつかIUTに限らず、数学の意義について話す機会がいただけたらと密かに思っている。

加藤文元さんによるIUT理論の解説

昨日取り上げたp進数と並び、ここ数年気になっているのは先日このブログでも取り上げたABC予想の証明である。

 

jimkbys471.hatenablog.com

 

 

jimkbys471.hatenablog.com

 

ABC予想が解決されたか否かは未だに決着がついていないようであるが、個人的にはABC予想という一見シンプル(だが実は現代数学の本質的な難しさを内包している)な問題が解決されたかどうかにはあまり興味がない。

興味があるのは、望月さんが提唱するIUTが、これまでに築かれた人類の叡智のフロンティアを推し進め拡大するものなのか、だとするとそれはどういうものなのか、である。

東工大の加藤文元さんがIUTについて「中高生にもわかるように」解説している動画があったので見てみた。

https://www.youtube.com/watch?v=kq4jbNl4lJk&feature=youtu.be

 

加藤さんの説明はできるだけ数式を使わず、IUTが如何に画期的であるかにフォーカスして説明している。

ガロア群、遠アーベル幾何といった概念は出てくるが、知らなくてもかまわない。

IUTの核心は、加藤さんによると、ABC予想が内包する本質的な難しさ、すなわちたし算とかけ算という異なる「パズル」あるいは舞台を解こうとする際に発生する歪み(ひずみ)あるいは不定性を評価することができる、ということだそうである。この評価を行なう際に、対称群という既に数学が持っているツールが活躍する、ということである。

正直、わかったような気もするがわからないような気もする。

 

しかし、p進数同様、IUTはスコトーマ外しにはもってこいのテーマだ。

よく純粋科学が何の役に立つのか、という質問が出るが(先日のブラックホール撮影成功の際にも出ていた)、大いに実用性があると思う。それは、我々のスコトーマを外し、思考をさらに拡げること、知的増幅に確実に貢献する、という意味において。

 

 

p進数を学ぶ

というものがあることを知ったのは数年前で、友人の数学者から教えてもらった。

p進数のpは素数(prime number)である。

学校でも2進法、10進法については習うが、p進数はそれとは異なる。

(参考)Wikipediaにある解説: https://ja.wikipedia.org/wiki/P%E9%80%B2%E6%95%B0

p進数の世界では、とても面白いことが起きる。

1+2+4+8...という無限級数は発散するとまず数学の授業(解析学)で教わる。収束しない級数である。

しかし、p進数の世界ではこの無限級数は収束し、和は-1となる。

pに一般化すると1+p+p^2+p^3...=1/(1-p)である。

ラマヌジャンもこれを知っていた)

どうしてこうなるのか、をこれまで習った数学では説明できない。

そこでp進数が登場するのである。

そしてp進絶対値、あるいはp進距離という概念が構成され、これによって上記の無限級数の和を証明することができる。

京大の古賀真輝さんの説明がとてもわかりやすいのでご覧いただきたい。

https://www.youtube.com/watch?v=CV8rw9dCf2U

最初はわかりにくいかもしれないが、距離というものの概念(通常のユークリッド距離という特殊な距離を含む)を一般化した上で新たに定義し、適用することで、一見非常識なことが厳密に理論的に導かれる。

 

数学を離れて、これを新たな視点として、人間と人間の関係に当てはめてみるとおもしろいかもしれない。

考えがまとまったらあらためて書いてみる。

新たな競争ロジック(The New Logic of Competition)を読む

以前勤めていた外資系の戦略コンサルティングファームから、定期的にメールが来るのだが、ほとんどの場合1秒でトピックのみスキャンした上でスルーしている。

が、一昨日届いたメールには、論稿"The New Logic of Competition"とあるので、興味を惹かれて読んでみた。

内容を一言でいうと:

企業を取り巻く事業環境が変化しているので、これまでの競争ロジックは通用せず(不十分であり)、新たな競争ロジックをビジネスリーダーは念頭に置いて経営せよ 。

ということである。ここまでは「まあそうかもな」である。

どう事業環境が変化しているかというと、まずその要因は、この論稿によると:

競争はより複雑かつダイナミックになっている

業界の境界が曖昧になっている

製品および会社の寿命が短くなっている

技術の進歩がビジネスを変革している

政治・経済等の不確実性が増している 

ということである。特に2010年代と2020年代の事業環境は異なると筆者達は主張している

ただし、問題は、何がどの程度異なるかは明言していないことである。

上記の5つの要因は、それこそ2000年代にも言われていたことばかりである。

一流のグローバルファームがこれだけパンチの効いたタイトルで論稿を書くのであれば、時系列的なコンテクストと具体的な事業環境変化の説明は必須である。

 

まあそれは許容するとして、では核心の「新たな競争ロジック」とは何かをみてみよう。筆者達によると、その要件(five new imperatives of competition)は5点ある:

  • Increasing the rate of organizational learning
  • Leveraging multicompany ecosystems
  • Spanning both the physical and the digital world
  • Imagining and harnessing new ideas
  • Achieving resilience in the face of uncertainty

意訳すると、①組織学習スピードを上げる、②他社と協働する、③リアルとデジタル両世界をまたぐ、④新たなアイデアを創出、⑤不確実性を(「レジリエントに」)マネージする、である。

そして、筆者らはこれらが"emerging aspects”であると称している。

 

トップコンサルティングファームとしては、big ideaを述べなければならないし、まずはこれをベースにトップとディスカッションし、この先はそれぞれの企業のcontext(文脈)で具体化していく、というアプローチであることは十分理解している。

 

自分が日ごろ様々な業種の経営者と話している中で、これらのことを意識していない経営者はいない。

いま手がけているエンタープライズリスクマネジメントのプロジェクトはまさにこれらすべてを既にアドレスしているし、コンサルタントである自分が指摘する以前に、役員の方はしっかり認識していた。

ただし、意識、認識していることと、組織としてしっかりと実行に移し結果に現れていることの間には3つぐらい壁がある。

いずれにせよこの記事は良い出発点にはなろう。

コンサル提案書の作り方

コンサルタントとして、これまで200を超える提案書を作成してきた。

最初は見よう見まねで先輩の作った提案書をテンプレートにして作っていたが、次第に自分が同僚や後輩の範になる立場になり(ならなければならない)、そもそもどういう提案にするかを考える立場で、勝てる(クライアントの心を打つ)提案書を作るにはどうすればよいかを考えるようになった。

コンサルティングの提案書作成は知的付加価値の結晶であり、作成の難度は高い。その理由は5つ:

  1. コンサルティングは高価である(安くて数百万、通常は数千万円)
  2. 売り物はサービスであり形が無い(成果物が見えていない)
  3. 業務が定型ではなく非定型(本質的に自動化できない)
  4. 同じテーマ(たとえば新規事業戦略策定)であってもクライアント、タイミングにより内容が変わる
  5. オーディエンス(読者)が通常一人ではなく複数(経営トップに直接提案する場合であっても、他の役員やキーマンも評価に加わる)

このように難度の高いコンサルティングの提案だが、提案書の作り方は基本的に同じプロセスである。

このプロセスは5つのステップから成る。

  1. クライアントの課題を特定する(事前面談、RFP(request for proposal)を手掛かりに、コンサルタントフレームワークと知見に基づき、解決すべき課題を特定する)
  2. 課題を解決する上で答えるべき論点を設定する
  3. 設定した論点に対して初期仮説を構築する
  4. 仮説を如何に検証し最終成果物を創出するかのロジック、アプローチ、フレームワーク、ツール、作業、スケジュール、リソースを特定する
  5. コンサルタントがこの業務を確実に遂行し、成果物を期限内に創出し品質を担保できることを示す材料を作成(成果物やツールのイメージ、実績、経歴、知見等)し全体を構成する

言うまでもなく重要かつ最も頭を使うのは最初のステップである。

解決すべき課題は、必ずしもクライアントが認識しているとは限らない。

 

実はこのコンサルティング提案書の作り方は、そのまま知的価値を創出する業務の進め方でもある。

与えられた問題を解決するのではなく、そもそもどういう問題を解決するのか、その問題を「発見」することで業務の価値の半分(経験則に基づく推定値)が決まる。