コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

動的ネットワークバイオマーカー

昨年、数理シミュレーションシステムに強みを有する㈱構造計画研究所のご招待で、同社主催のセミナーに参加した際、数理モデルの第一人者の一人である東大の合原一幸教授の基調講演を聞きました。

いくつか刮目すべきアイデアが披露され興味を抱いたのですが、地震予知から感染症対策まで様々な分野における最先端の数理モデル応用による効果のうち、動的ネットワークバイオマーカーに大きな期待を感じました。

動的ネットワークバイオマーカー(Dynamic Network Biomarker, DNB)とは、「未病」の概念を、最先端の科学で実現しようという試みです。

現在の診断では、明らかに一つあるいは少数の指標が異常値を示した場合、それを以て疾病と診断します。

しかし、これは既に「未病」の状態から完全に「病」の状態へ移行してしまった状態であり、既に治療可能な状態を超えている場合もあります。

また、従前より唱えられている予防医学は、未病から病に移行する遥か以前の段階に維持しようというもので、これも効率的とはとても言えません。

DNBは、より望ましい身体の状況に関する様々な多数の指標のビッグ・データを、その変動特性の観点から数学的に分析することで、未病状態の診断そして病気の状態への発病の引き金を引く因子群をみつけることが出来るというものです。

一般には、複数のバイオマーカーから成るネットワークとしてのゆらぎが、発病の引き金を引きます。

つまり、発病するということは特定の指標だけが変化して後はすべて不変、ということではなく、互いに相関する、或いは相反する多数の有意義な指標全体の変化とそれらの関係から、どう未病から病への閾値を超えたかを、合理的・定量的に判断するものです。

これは数理工学の進歩とビッグ・データを収集・解析する一連の技術の実用化によって初めて可能になったことで、長期的には根本から医療を変える可能性を秘めています。

この理論は複雑なシステムの挙動、すなわちたとえば経済予測や地震予知にも応用されつつあります。

臨床への応用はまだまだ当分先のことだと思いますが、個人的には大いに期待しているところです。