コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

英文記事抄録:AIが医療を革新する10の方法

普段仕事の上で情報収集している医療技術系サイトに「10 Ways AI is Disrupting Medicine(AIが医療を革新する10の方法)」という記事があったので読んでみました。

www.qmed.com

その10の方法とは:

  1. Unlocking the Value of Genomics(ゲノミクスの価値を解放する):IBM Watsonを用いて複雑かつ大量の遺伝子データを解析。

  2. Flipping Cancer Care on Its Head(がん治療をひっくり返す):頭頸部がんの放射線治療の所要時間を劇的に短縮。

  3. Getting Inside Your Head(頭の中に入る):脳内電気刺激やチップ埋め込み。

  4. Transforming Radiology(放射線診断を変革):AIは放射線画像診断をより迅速・正確・低コストで行なうことを可能にする。

  5. Helping You Nip Problems in the Bud(問題を芽の段階で摘み取ることが可能に):Medical EarlySign社やMediktor社のAIを用いた早期診断技術で下部消化管疾患等の早期診断が可能になってきている。

  6. Keeping Your Heart in Check(心臓を見守る):Cardiologs Technologies社のAIを用いた心電図解析プログラムが今般FDA承認を得、従来より高精度で不整脈などの診断が可能になった。

  7. Taking Research to the Next Level(臨床研究のレベルを一段階上げる):サンフランシスコのAIベンチャーであるMendel Healthは、ニュージャージーのプレシジョン・メディシン企業であるCancer Geneticsと組み、がん領域での臨床試験の患者リクルーティングをAIで支援することが可能と主張している。

  8. Tapping Into Chronic Conditions(慢性疾患の新たな治療法の発見):カリフォルニアの遠隔診断技術スタートアップBiotricity社は機械学習が現在の医療を向こう10年間で抜本的に変えると予測。特に個人がまるで医者を携帯しているかのようになる、など。

  9. Predicting Your Risk of Stroke(心臓発作発症リスクを予測):英国ノッティンガム大学の研究チームが、米国循環器学会の診療ガイドラインに基づく、個人の生活習慣ビッグデータへの機械学習の適用により予測することが可能と発表した。

  10. Biting into Dental Care(歯のケアに参入):歯科医療機器メーカーのKolibree社は今年AraというAI搭載の歯ブラシを発売。ユーザーの歯の磨き方のクセを深層学習し正しい磨き方をアドバイスするのが狙い。

 

これらの中にはまだ早期段階にあるものが多いですが、実現すれば確かに大きく医療を変えるものになりそうです。

自分がやってきたことが実はパレオダイエット的だった

おとといの投稿で「ブルーゾーン」について書きましたが、その際に参考サイトを探していたら、よくある「こんな記事も読まれています」に「いかに私は40kg台にまで体重を落としたのか」という記事がありました。

おおっ。

いやまて、これ女性の話じゃないのか。

関係ないな。

・・・と思いつつもクリックしてみると男性でした。しかも41歳で165㎝、47kgというからかなり細いです。自分より細い・・・

いやまて。これかなり眉唾ものじゃないのか・・・

あてにならんな・・・

と思いつつもよくよく読んでいくと「パレオダイエット」なる言葉が。

パレオとはpaleolithic、すなわち石器時代のことで、パレオダイエットとは石器時代流の食生活ということなのです。

むむ。なんか「やられた」感あり。

ここ2年、重症アレルギーで入院し体質改善を試み、16kg減量し風邪もひかなくなり頭痛もなくなりアレルギー症状もなくなった自分がやってきたことと近い!

すなわち、極力薬は飲まない、炭水化物はわずか(砂糖をやめ、米やパンや麺をやめ)、食品添加物は避け、野菜中心、かつ運動量を増やす(一日2万歩以上)・・・というももとはと言えば「現代的」な食生活の回避というポリシーのもとだからなのです。

(ただしビールは遠慮なくいただく・・・)

yuchrszk.blogspot.jp

 

まぁこの人もはっきり言ってかなりの健康ヲタクですね(人のことは言えない)。

ぜひ興味ある方は読んでみてください。

製薬会社が売りたくない抗がん剤があるらしい

最近マスコミ(特に週刊○代など)「抗がん剤は効かない」と主張してきており、それは概ね正しいのですが、中には「効く」抗がん剤も存在します。

オプジーボ、キートルーダ(日本語ではありませんが「効いとるーだ」みたいに聞こえなくもありません)、それからつい先日FDAが全会一致で承認を支持したノバルティスの「CTL019」(「ブレークスルーセラピー」(画期的治療薬)の指定を受け、優先審査の対象となっていた。その適応は「小児・若年成人の再発・難治性B細胞急性リンパ芽球性白血病」。B細胞急性リンパ芽球性白血病は15歳未満の小児のがん診断の約25%を占めるそうです)の承認も間近とみられ、これらがいま最も注目される抗がん剤ですが、いずれもきわめて高額の新薬です。

今回取り上げるのは新薬ではなく既存薬です。

P-THPと呼ばれる薬です。正式にはHPMA-polymer-conjugated-THPといい、ポリマーと有効成分であるピラルビシン(pirarubicin)を合成した低分子薬です。

ほとんどの抗がん剤は、がん細胞に対する特異性(がん細胞だけを狙い撃ちする)が十分に高くないため、健康な細胞に対しても毒性を発揮し、その結果として副作用が現れるため、有効性を高めようと投与量を高めるほど副作用も激しくなるというジレンマが生じます。

ところがこのP-THPという薬はその特異性が高いそうなのです。なぜかというと、悪性腫瘍の周囲の血管は速成の血管であるが故に、血管壁に通常の血管よりも大きな穴が開いており、P-THPはこの穴をくぐりぬけられる大きさであるため、その穴から漏れてほぼ腫瘍部分のみを攻撃できるという、シンプルなメカニズム(ERP効果というそうです)のものです。

そんなに効く薬ならなぜ売れないのでしょうか。それは製薬会社が積極的に開発、製造し販売しないからです。

実はピラルビシンの特許はとっくに切れており、したがってジェネリックにしかならず、高い薬価がつかないのです。

しかし、開発していないので未承認です。したがって使うとすれば自由診療になってしまう、つまり患者負担は重いのです。

ジェネリックということはつまり製薬会社は儲からないということです。コストをかけて開発し承認されても儲からないなら開発しません。

昨年半値にさせられたオプジーボは半値でも年間数千万円します。また、製薬会社はより新しいメカニズムの新薬の開発には躍起になっても、このように古い仕組み(それがいい仕組であっても)には興味がないのです。

このように良い薬であっても売れない、その理由は製薬会社のインセンティブにある、ということの象徴のような薬がP-THPです。

実は仲の良い友人の知り合いであるお医者さんがこのP-THPの普及を手掛けているそうなのです。孤立無援の戦いのようです。既得権益の中で大変だとおもいますがぜひ頑張ってほしいと願っています。

読書メモ:ブルーゾーン~世界のセンテナリアンに学ぶ健康と長寿のルール~

ひさしぶりに地元の図書館に足を運び(家から1kmぐらいのところにあるのでいい散歩になります)、来月から自分主宰で始める研究会のテーマである「健康長寿」に関する本を探してみました。

「ブルーゾーン~世界のセンテナリアンに学ぶ健康と長寿のルール~」というなんともお題にぴったりの本(訳書)をみつけました。

www.amazon.co.jp

著者のダン・ビュイトナー氏は、あの「ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)」誌の記者で、2005年11月号の同誌に「長寿の極意」という特集記事を書き、この記事の中で長寿者の多い3つの地域を「ブルーゾーン」と名付けています。ブルーゾーンという名は人口動態学者がイタリアのサルディーニャ島を取材した際に名づけたものだということです。

その後の取材も含めて、世界有数の長寿地域4つをブルーゾーンと定義し、現地での住民たちへのインタビューから、長寿の秘訣を明らかにしようとした意欲的な書です。

この本で取り上げられているブルーゾーンは以下の4地域です:

 

この本は示唆に富んではいますがあくまでドキュメンタリーとして読むに留めるのが良いと思います。

それぞれの風土でそこに合った暮らしをすること。自分の努力や性格もありますが、持って生まれたものも含め運よく長寿でいられる人たちがそこに比較的多いこと、という事実関係以上の因果関係を求めるには無理があります。

確かに4地域に共通する要因はあるかもしれませんが、それを我々の地域に一般化するのは正しくありません。

過度の一般化は慎むべきです。

読書メモ:未来に先回りする思考法

つい先日、時間の売買取引を行なう「タイム・バンク」を秋に開設すると発表したメタップス社を立ち上げ率いる佐藤航陽さんは毎日Twitterでとてもinsightfulなアイデアを提供されています。

twitter.com

 

ぼくのブログで以前彼の著書である「未来に先回りする思考法」について書きました。

 

jimkbys471.hatenablog.com

 

あらためて彼の著書から印象に残っている記述を取り上げてみました。

 

  • 99.9%の人は未来を見誤る。それは世界が変化するパターンを見抜けないからだ。パターンを認識するにあたり最も重要なのはテクノロジー。
  • リーンスタートアップではもはやうまくいかない。どれだけスピーディに変化に対応して仮説検証を繰り返しても、競争が激しくなりすぎてしまえば十分な利益を上げることはできない。
  • GoogleFacebookは社会の変化の流れを点ではなく一本の線として捉えている。
  • テクノロジーの本質的な特徴は「人間を拡張する」、「いずれ人間を教育し始める」、「掌から始まり宇宙へと広がっていく」の3点である。
  • IoT浸透の延長には意思決定の省略がある。IoTであらゆる物体に知性が宿る。これはモノのインターネット化の一段階先の話。
  • 人間が想像できるアイデアは将来における点であり時間の経過と共に進化の線に取り込まれる。
  • イノベーションは切実な必要性が存在するところに起こる。日本社会には差し迫った必要性が存在しない。
  • 今の時代に当然とされているものを疑うことができる能力は未来を見通す上で重要な資質である。
  • 財務諸表という、すべてがデータ化される時代の前に作られた指標だけでは、既に正確な企業価値を測れなくなりつつある。
  • テクノロジーとは最終的には人間そのものと融合することが運命づけられたものである。テクノロジーによって人間自身もまた次の進化のプロセスに向かって動かされている。
  • 人々の価値観が切り替わるタイミングは、技術の実現する利便性が人々が技術に対して抱く不安を上回った瞬間である。テクノロジーによって賃金が下がり雇用が失われても生活コストが下がり労働時間も減り精神の充足が得られる方向に変化する。
  • 本当に成果を上げたいのであれば、真っ先に考えなければならないのは今の自分が進んでいる道がそもそも本当に進むべき道なのかどうかである。
  • ロジカルシンキングには限界がある。構築できるロジックはその人がかき集められる情報の範囲に依存するという情報の壁、および意思決定者のリテラシーの壁に阻まれる。
  • 今の能力に基づいて意思決定してはならない。行動を起こす時点と結果が判る時点の時間差があるほど自分の認識はあてにならなくなる。認識よりパターンを信じて行動すべき。波が来る少し前に未来に先回りして待ち受けるべき。
  • 誰がいつ実現するかは最後までわからないが、何が起きるかについては凡その流れは既に決まっている、人が未来を創るのではなく、未来の方が誰かに変えられるのを待っている。

いずれも示唆に富んでいますね。

未来に先回りすべく根本的に思考を変えたいとおもいました。

 

必要なのは確信だ自信ではない

そう。

自分を信じようとしているうちは自分を信じていない。

持とうと思って自信は持てない。

自信は湧いてくるものだ。

誰から与えられるものでもない。

自分の中から湧いてくる。

そしてその自信が充満して確信に変わる臨界点に達する。

確信の誕生だ。

もう恐れるものなど何もない。

スクリャービン ピアノソナタ第7番「白ミサ」の録音聴き比べ

1年半前から取り組んでいるスクリャービンピアノソナタ第7番作品64「白ミサ」は、最もポピュラーな2番「幻想」や5番、その次に演奏機会の多い9番「黒ミサ」、あるいはそれに次いで演奏される4番、3番、10番に較べても演奏機会の少ない、いわばあまり「人気の無い」曲ではあるのですが、これまで2番、3番、4番、5番、7番、10番に取り組んだことのある自分的には最も好きな曲であります。

そうはいってもYoutubeで検索するとけっこう出てきます。Youtubeさすがですね!

個人的にはスタンダードとされるアシュケナージのCDを最初の頃は良く聴いています。よい意味でクセのない正統的な演奏で好ましいです。

あとはiTunesでマイケル・ポンティの演奏も聴きます。通常12分程度かかるこの1楽章ソナタを9分という超高速で弾いています(ただし速過ぎて弾けないところはゆっくりになっている)。

Youtubeでいくつか聴いてみました。

まずはカナダの現役ピアニストであり作曲家でもあるマルク=アンドレ・アムラン(Marc-Andre Hamelin)の演奏。ダイナミックです。

www.youtube.com

 

続いてロシアの往年のピアニスト(現在80歳)であるイゴールジューコフ(Igor Zhukov)の演奏。たっぷり歌っていますがいかんせん遅すぎです。16分超かかっている演奏はおそらく最も時間かけているでしょう・・・

www.youtube.com

 

続いてはこれもロシアのピアニストであるネルセシアンの演奏。最初にインタビューが入っているので5:25あたりから演奏が始まります。日本でもマスタークラスなどをなさっておられる先生であり、とても参考にすべき演奏だとおもいます。

www.youtube.com

 

続いてはロシアの若手(1984年生まれの33歳)で2012年の浜松国際ピアノコンクールの覇者でもあるイリヤ・ラシュコフスキーのつい最近のコンサートの模様から。なんと先月アップされたばかりなのですね!自分が苦労している難所中の難所をまったくごまかさず楽々と弾いているのが悔しい・・・

www.youtube.com

 

日本人の演奏はこれを選びました。クリーブランド国際コンクールを制した日本の期待若手ピアニスト福間洸太郎くんのさわやかな白ミサ!(実際お会いして話すとほんとにわやかな青年です)

www.youtube.com

 

実はもう一人紹介したい日本人ピアニストの演奏があるのですが、アップするとご本人に怒られるので(友人なのです)控えます!!!

 

刺激を受けたのでますますがんばらねば!

 

 

「保健医療2035」を読み解く(3)

我々日本人の未来がかかっている最重要の保健医療システムの進むべき方向性を指し示す「保健医療2035」シリーズ3回目は、前々回(1)の現状認識、前回(2)の改革の方向性=パラダイム・シフト、を経て2035年のあるべき姿編です。

(1)はこちら: 

jimkbys471.hatenablog.com

(2)はこちら:

jimkbys471.hatenablog.com

 

「保健医療2035」では2035年に日本の保健医療システムがあるべき姿を大きく3つの柱でまとめています。

ぼくなりに絵にしてみたものがこれです:

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3つというのがポイントです。なにかをわかりやすく説明するときに、「3つあります」というのはとても効果的です。「いろいろあります」はNGです。3はマジックなばーです。コンサルタントの鉄則でもあります。

 

ただこれだけではどういうことなのか抽象的過ぎるので、保健医療2035の提言からこの3つの柱について引用しますと:

 

1.リーン・ヘルスケア 〜保健医療の価値を高める〜

・ 医療提供者の技術、医療用品の効能など(医療技術)を患者の価値を考慮して評価し、診療報酬点数に反映

医療機関のパフォーマンスの見える化とベンチマーキングによる治療成績の改善

・ 地域のデータとニーズに応じて保健・医療・介護サービスを確保

 

2.ライフ・デザイン〜主体的選択を社会で支える〜

 

・ 2035 年までに「たばこフリー」社会を実現

・ 電子健康記録に介護サービス情報を含めた個人レベルでのポータブルな情報基盤の普及・活用を支援

・ 住民が健康・生活上の課題をワンストップで相談できる総合サービスの充実

・ 健康の社会的決定要因を考慮したコミュニティやまちづくり

 

3.グローバル・ヘルス・リーダー〜日本が世界の保健医療を牽引する〜

 

感染症の封じ込めや災害時の支援など健康危機管理で国際的に貢献する機能を大幅に強化し、世界の「健康危機管理官」としての地位を確立

・ 政府、自衛隊NPO市民社会などと連携した保健安全保障体制の確立

・ 地域包括ケア等の医療・介護システムの輸出

・ 国際機関などによるグローバル・ヘルス・ガバナンスの構築への貢献

 

具体的になってきましたね。

ただぼくに言わせれば「惜しい」のです。

我々コンサルタントがあるべき姿、ビジョンを策定する際、そこに書かれていることはある状態であって、何かをしていることではないのです。個人の目標設定にしてもそうですよね。たとえば勉強にしても「教科書を読んでいる」は目標ではありません。「高校の教科書を理解できている」なら目標になり得ます。

なので、「反映」「改善」「充実」「まちづくり」「輸出」「貢献」で終わっているものはいずれも「教科書を読んでいる」的な表現にとどまってしまっています。「反映」した結果として医療経済的評価がどこまでできており、その結果医療サービスと我々個人、或いは医薬品メーカーや医療機器メーカーがどうなっているのか、ということに関する記述がないと「あるべき姿」を描いたことにはなりません。「改善」もそうです。どこまで改善され、何がどう変わっているのかを書かないと、プロセスの記述に終わってしまっています。

いやきっとこの提言の議論の中ではそれらの姿が描かれていたのでしょう。しかしこれが広く読まれるものであり、様々な利害関係者のことを配慮した結果、この表現に落ち着いたものと推察します。

なかなか難しいですね。

(つづく)

フレイルとサルコペニア~健康長寿社会はどうしたら実現できるのかについて考えてみた

目下、健康寿命を如何に延ばすかということをテーマとして考えているのですが、健康寿命を短くするものの一つとして、ロコモティブ・シンドローム(運動器症候群)は聞かれたことがある方が多いかと思います。通称ロコモとも呼ばれたりしますが、骨や関節、筋肉が衰えることによって、立ち上がったり歩いたりすることに支障をきたしている状態の総称で、これが進行すると寝たきりなど要介護状態になってしまいます。

 

このロコモティブ・シンドロームと似た概念にフレイルとサルコペニアがあります。

まず、フレイルとは、2014年あたりから新たに使われるようになった言葉です。老年医学の分野ではもともと英語のfrailtyが「要介護状態になる前の高齢者の虚弱」を意味する用語として使われてきたのですが、「老化」でもなくまた単なる「虚弱」とも違うのでなかなか適訳がなく、またもや新たなカタカナ語の出現となりました。

カタカナか否かはともかく、フレイルが意味する状態を正しく認識することが、高齢者の医療・介護を前進させるというのが、フレイルという言葉を提唱した日本老年医学会の主張であり、それを読むともっともだとおもいます。

学会によると、フレイルの状態の人は要介護状態に至る危険性が高いのみならず、生命予後が悪く、入院のリスクが高く、転倒する可能性も高く、さらに複数の疾患を持ち、複数の薬剤を内服している方が多い傾向にあるということなので、医療経済的な観点からも、既に高額の医療費がかかっているのがさらに高額になる可能性が高いセグメントをどうするか、という打ち手の重要性を示唆します。

フレイルの状態は身体的側面と精神・心理的側面の双方で判断されますが、身体的側面では、体重の急激な減少、疲れやすさ、活動量低下、歩行速度低下、筋力低下の5つのポイントで評価するのが現時点の案のようです。フレイルに陥る負の循環の重要な要因に低栄養があり、このため最近は高齢者に対しては従前の肥満予防、血圧上昇抑制のための食事ではなく、高栄養が重視されるようになっているようです。

 

一方、サルコペニア(sarcopenia;語源はギリシア語の「筋肉の減少」)は、「進行性および全身性の骨格筋量および骨格筋力の低下を特徴とする症候群」と定義されています。難しい定義ですが要は筋肉が減って調子悪くなるということですね。

筋肉が減るということは単に筋力が弱るということには到底とどまりません。筋肉が減って筋力が弱れば骨も弱くなりますし、大腿筋のような大きな筋肉はグリコーゲンを大きく消費し代謝に貢献する訳ですから、これが減ることで糖尿病や循環器疾患の発症・増悪のリスクも高まります。筋力が弱まって骨が弱くなれば高齢者の寝たきり状態への移行の主因である転倒のリスクも高まります。寝たきりに至らなくとも骨折し安静にしていればますます筋量も減り骨も弱まり、動くのが億劫になり・・・という悪循環に陥り、「廃用症候群」という、ちょっと風邪で寝込んだだけでも寝たきりになってしまうという、その名を聞くも恐ろしい病気(?)になってしまいます。

対策はフレイルと同じですが、サルコペニアは40代から、いや最近は若者の運動量・活動量が低下しているので既に10代から始まっているとも言われています。気をつけないといけません。

 

脳もそうですが、人間は使われない臓器は「ああいらないんだな」と判断してがんばって機能を維持しようとしなくなるようですね。

高齢の方でなくても、若くても使わなければ衰えます。たとえば、宇宙飛行士がいい例です。短期間の無重力状態の滞在でも、地球に帰還したときに車椅子を使っていた映像を見たことがある方もいらっしゃるでしょう。身体能力が高く若い宇宙飛行士ですらそうなってしまうのです。いわんや一般人や高齢の方はなおさらですね。

過度な運動はもちろん毒ですが、現代人はむしろ運動不足気味なのですから、意識して歩く、動くようにしなければなりません。

とはいってもなかなかそれが難しいのも現実ですね。都会に住み或いは通勤している人は否が応でも歩かなければならないし、逆に歩く距離で日常の用事が完結してしまうのでよいのですが、そうでないところに生活圏があり、車無しでは生活が成立しない場合はなかなか歩くといっても難しいですね。安全でない場合もありますし、歩こうにも距離があり過ぎて歩けないということもあるでしょう。

なんとかこの問題を解決したいと思っています。

この問題意識はもう10年以上前から持っておられる方がおられ、たとえば筑波大学の久野先生は大学発ベンチャー「つくばウェルネスリサーチ」を立ち上げ、"Walkable City"の推進に取り組んでおられます。

www.twr.jp

 

国交省が提唱した「コンパクト・シティ」も発想の原点は共通のものがあるとは思うのですが、各地の自治体で実践されてはいるものの、残念ながら成功したという例は聞きません。買い物、行政サービス、医療や介護の充実を図るために面密度を高めるというのはいいのですが、そう簡単に引っ越せないですからね。農家の方は自分の農地を捨てる訳にもいかないですし。

 

やはり根本は「歩いて用が足りる」以前に、「普通に歩ける、運動できる」ことを含めて身体的に自立している状態を如何に維持するかですね。動けなくなると引きこもりがちになりますし、そうなると人付き合いも少なくなり、刺激が少なくなりますから認知症等の発症・進行にも寄与してしまうでしょうし(おそらく)。

町ぐるみでお年寄りを元気にするプロジェクトを推進している自治体もあるようですが、寡聞につき未だ目覚ましい成功を遂げた事例は知りません。

また、米国で成功したCCRCという構想を日本版CCRCとして進める動きもあるようです。

地方創生のエンジン「日本版CCRC」の可能性 | プラチナ社会研究会

これは2015年の記事ですが、その後どうなっているんでしょうね。

いずれにしても来月から本格的に研究会を立ち上げて検討するので、いろいろな方からお話を聞きつつ、実効性のある施策を打ち出すべくがんばります。

戦略コンサルティング業の終焉

いかなる産業にもライフサイクルがあり、寿命というものがある。

産業ライフサイクルは、一般的には勃興期⇒成長期⇒成熟期⇒衰退期の4段階を辿る。

勃興期はプレイヤー(企業)の数も少なく、顧客(クライアント)もごく一部のイノベーターと言われる先進的なニーズを充足する企業群であり、当時の一流と言われる企業であった。戦略コンサルティングは米国で1960年代に勃興期を迎えている。

勃興期が進むと、この業界の将来性に目をつけて、新規参入者が続々と増えると共に、顧客の層も拡大していき、成長期に入る。そして、商品であるコンサルティング・サービスも高度化していくと共に、顧客のニーズも多様化し、成長が加速する。

成熟期に入ると、市場成長は鈍化するものの、市場は安定し、プレイヤー(コンサルティング会社)の事業モデルも安定し、収益性は極大化する。戦略コンサルティング業界の場合、日本では2000年代前半がこの時期だったと思う。その後、成熟期後半になると競合も激化し、コンサルティング・サービスのコモディティ(汎用品)化が始まる。こうなると価格競争が始まり、儲からなくなっていく。

ここからが衰退期の始まりである。コモディティ化するということは、クライアントである企業側にとっても、従前は外注していた「特殊な」業務である戦略策定を、内製化すなわち自ら手掛け、ルーチンワーク化していくことを意味するため、需要そのものが減少していく。このため、収益性が低くかつ成長も見込めないため、既存プレイヤーの中には撤退する者も出ていく。コンサルティングから完全に撤退するというよりも、事業モデルのシフトを図る。たとえば最もよく見られる例は「実行支援」、すなわち戦略策定後の実務に落とし込み結果を出していく(=業績を改善・向上する)ことを経営トップではなく現場でサポートすることに重点を置くことである。

戦略策定は通常3ヶ月から半年程度で行なっていたものが、実行支援となると最低でも半年、長い場合には数年にわたって支援を続けることになるので一見コンサルティングファームにとっては業績のビジビリティ(予測/予見可能性)が高まるように見えるが、クライアントも組織能力が高まっているので、そもそも実行支援のニーズは低い、あるいはあったとしても専門性の高さが要求される(業種毎に)ことは当然であり、戦略コンサルティング・ファームに対応できるとは限らないし、長期の関与を想定して開始しても徐々にフェードアウトしたり、関与が薄いので単価が低かったりするため必ずしも実行支援は儲かるとは限らない。

一般に高い専門性が問われる領域では、その業界出身者であるベテランがフリーランスコンサルティングを提供することも多いし、筆者の周りでも増えている。

戦略策定においては、客観的・相対的な視点やロジカル・シンキング、プレゼンテーション、ファシリテーションといった能力で圧倒的にクライアントを上回ることで付加価値を創出・訴求できていたものが、クライアントの能力向上(戦略コンサルタントの事業会社への転出等も含む)により、価値訴求が確実に難しくなっている。

高い専門性を要する人材を組織として多く採用し、これまでの幅広い業種に対して深く入り込むのは、コストベースも高くなるし、ファームの人材ピラミッド(up or out)故のビジネスモデルにもそぐわない。そもそも戦略コンサルティング・ファームの高いフィー水準ではなかなかコンサルティング業務の営業は厳しいものがある。これがフリーランスの業界エキスパートが重宝される理由でもある。

戦略コンサルティングのニーズ自体が完全に無くなる訳ではないが、このように確実にかつての事業モデルは通用しなくなっているし、転換も非常に難しい。M&Aコンサルティングの融合というのも各社指向しているものの、M&Aを頻繁に戦略遂行の常套手段としている「M&A巧者」企業はかなりの業務を内製化し、外部専門家の起用の機会は少ない。かといって滅多にM&Aをやらない会社にいくら営業をかけてもM&Aを強制する訳にはもちろんいかないのでいいクライアントには成りにくく、営業コストをかけるだけ無駄である。

戦略コンサルティング・ファームは、現在でもかつてのような「競合の収斂」の状況にある。戦略立案から実行支援、M&Aとの融合、あるいはテクノロジーとの融合、オープン・イノベーションのサポート、等は各社取り組んでおり、相変わらず「選択と集中」はできていないし、クライアントの視点からしてもどこを選んだらいいのか難しく、結局ブランドかフィーの安さで選ぶことになる。

圧倒的な何か、「これをやらせたら世界一」、「(クライアントが)自分では逆立ちしてもできない」ものを提供し続けるには、総合百貨店的ではあり得ないのはどの業種でも同じことだ。

経営とは勇気である。ディープ・ニッチに特化し、規模を追わず、クライアントの変化するニーズを捕捉しつつ、速い速度で組織学習のPDCAを回して進化する、そういうコンサルティング・ファームこそがこれまでも成功してきたし、これまでも生き残るであろう。そして現在までの「戦略コンサルティング業界」は終焉し、進化型のプレイヤーが生存するであろう。