コンサルタント=ピアニスト=ランナーはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストがランニングと仕事術とピアノと英語とかについて語ります

プロジェクトマネジメント力は稀少資源

企業の価値の本質は何か。稀少資源である。

他の誰にもできないことをやる、他の誰も提供しない価値を提供できる。

なぜ他の誰にもできないのか。それはその企業が他の誰も持っていない(稀少)経営資源を持っているからである。

経営資源は、知識、ノウハウ、プロセス、オペレーティング・メカニズム、など多岐に亘る。顧客基盤や顧客知識も経営資源である。

他の企業でも作れる製品、他の企業でも提供できるサービスであっても、顧客との信頼関係があれば優位性は築ける。

他の誰も知らないことを知っている(知識)、他の誰もしらないやり方を知っている(ノウハウ)、他の誰も持っていないあるいは他の誰よりも効率的な仕事のやり方(プロセス)、他の誰よりも優れた会社の運営の仕方(オペレーティング・メカニズム)、いずれも古今東西不変の競合優位性の源泉である。

そして、マイケル・ポーターが言っているように、マネのしにくい競合優位性の源泉ほどロバスト(頑健)であり、持続可能性が高い。

数年前から、「デジタル・トランスフォーメーション」とか「デジタル・ディスラプション」ということがビジネスの世界ではかまびすしく(喧しく)言われている。

しかし、これらがまたかつてのドットコムバブル(2000年頃、はじけたのでドットボム(dot bomb)と揶揄されたが)の頃と同じく、それがどういうことなのかリアリティを持って説得力ある形で説明されているのにお目にかかったことがない(かなり良い筋から常に情報を入手しているのにもかかわらず、である)。

確かに、テクノロジーで人の働き方は変わってきている。失われている職種もある。AppleiPhoneはコンピューター、家電、カメラ、オーディオ、ソフトウェアといった業種に大きな影響を与えている。したがってこれら影響を受ける業種の企業経営者や従業員にも大なり小なり変化をもたらしているし、場合によってはdisruptiveであろう。

ビッグデータやAIはどうか。AIとまではとても言えないが、RPA(robotic process automation)は一部の間接業務に関わる人員を削減可能にしているし、実際削減してもいる。しかし多くの業務はまだまだとてもRPAごときで置き換えらるものではない。

いまold world的業種の企業のデジタル・トランスフォーメーション的なプロジェクトを統括しているが、その企業のトップはAIやらRPAやらドローンやらを導入したいと言っているものの、では手始めにRPAを導入しようとしても、会社として明確に業務プロセス・業務フローを明確にできておらず、かなりの部分において属人的、暗黙知的な仕事の進め方をしているので、RPA導入を検討するならまずやるべきことは業務プロセスの定義るいは再定義である。このことは、いわゆる昨今のテクノロジー以前の、1990年代からのBPRをやろうとしても同じことである。

確かに技術は進化し、同じことをやるにしてもコストは大幅に低下している。その意味ではいくつかのテクノロジー導入のハードルは低くなっている。しかし、肝心の、何のためにその業務を行うのか、その業務の付加価値はどこにあるのか、が見えておらず、IT導入ありきでHowばかり洗練させてもあまり意味はないどころか、IT導入に係るコストに見合わない可能性すらある。

そして、確かに変化の速度は上がっているし、変化の多様性も高まっている。複雑性というと思考停止になりがちなのであまり使いたくはないものの、事業環境の複雑性は確かに従来に較べれば高まり、予測可能性は低くなっている。

したがって、従来型の組織構造、組織の運用の仕方ではagileに変化に適応できないことに異論はない。

ではどうすればよいのか。

最も有効なのは、従前の階層型組織からプロジェクト型組織への移行である。

ルーチン業務はますますテクノロジーによって自動化される。したがって間接部門は縮小していく(べき)。

製品ライフサイクルが短くなり、次々に訪れる変化に対応するには、その時々の課題解決プロジェクトを立ち上げ、回していくしかない。いちいち組織の箱を作っては変え作っては変えということでは対応できない。しかも、その課題は毎回変わるから、特定の専門知識を持った人材をいちいち雇って対応する訳にもいかない(そもそも採用の難度が高いし、3年後にはその専門知識は要らないかもしれない。たとえばコンピュータプログラミング)。

我々コンサルティング業界の仲間でいつも話題になるのは、このようなプロジェクトをマネジメントできる人材というのは、コンサルティング業界ですら稀少資源であることだ。プロジェクトマネジメントを専門とし、そのスキルを社内で育成し続けているにもかかわらずである。

プロジェクトマネジメントの難度は高い。多様な人材から成るチームのポテンシャルを最大限に引き出し、限られた期間で迅速に、問題の定義(これが重要)から解決策の立案・実行までデリバリーするのは、これ自体が特殊なスキルである。

わかっている企業にはこのプロジェクトマネジメント力が貴重でありしたがって価値があることがわかっているからコンサルティングファームを起用するが、わかっていない企業(ほとんどの企業)は、わかりやすい専門知識、業界知見などを重視するからコンサルティングファームを雇わないか、雇っても価値を出せない。

デジタルトランスフォーメーションはデジタルとつこうがつくまいが企業変革であり本質は変わらない。その成功はプロジェクトマネジメント力にかかっている。