コンサルタント=ピアニストはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストが仕事術とピアノと減量と英語と沖縄とかについて語ります

ショパン前奏曲集作品28(85)イエルク・デームスのアドバイス(1/3)

月刊ショパン1985年5月号から7月号に3回に分け、往年の名ピアニストであるイエルク・デームス(1928年〜)によるショパン前奏曲集作品28の誌上レクチャーが掲載されている。

これが実際の演奏上とても参考になるポイントにあふれているので、特に重要と思うポイントを各曲1点のみここに挙げてみる。

まずは1番から8番について。

第1番 ハ長調: (右手)5の指はエコーのように

第2番 イ短調: はじめの音にアクセントをつけないで、どこからともかく灰色の音が忍び寄るように

第3番 ト長調: 左の手首を少し高めにして指を鍵盤にのせたまま手首で弾く

第4番 ホ短調: 速くて派手な曲は音符さえ覚えてしまえばそれほど難しくないと言えますが、この様に凝縮された深い内容の曲は本当に難しいのです

第5番 ニ長調: 終わりの2つの和音を私は少し控えめに弾きます

第6番 ロ短調: H音を単調に、しかし全く同じではない音で弾いてください

第7番 イ長調: 同音反復は>にして

第8番 嬰ヘ短調: コルトー短調のところはペダルを使って、長調のところはペダル無しで弾いたのを私は聴きました

ショパン前奏曲集作品28(84)アナリーゼの意義

この曲にしばらくのブランクを経て取り組み再開してからというもの、自分の練習のあり方がシフトした。

そもそも一度ひと通り弾いているので音高音価は頭に入っているのだが、自筆譜を見たり、様々な角度からの研究論文を読み、和声を分析し、曲想に想いを巡らせるといった一連の分析を行なった結果、一定の完成形のイメージはできている。

したがって、ピアノに向かってやることは減点法のダメ出し(弾けてない!)ではなく、思い描いたことが一つ一つ出来ていく加点法の練習となる。

しかも一つのことが出来たら音楽的にも納得のいくものなので、絶対の自信が持てる。誰の前でどこで弾くにしても恐怖感や不安は無い。

減点法の練習ははなはだ非効率である。試行錯誤が多く時間がかかる上、セルフエフィカシーも損なう。そしていつになったら満足のいく演奏になるのか目処がつかないからいつまでもどれだけ練習しても不安は払拭できない。

真のアナリーゼとは、どう演奏するか、アーティキュレーションデュナーミク、腕の動きや呼吸も含めて全て弾く前にイメージできているものだと思う。

実際に音にしてみる意味は、イメージしたことが実現できることの確認だけではもちろん無く、音のバランスや曇らせ方の程度などファインチューニングもあるし、アナリーゼの段階で気付かなかった新たな曲の魅力(作曲者の工夫)に気付くこともあり、これはどんどんレベルが上がっていくことを実感できる楽しい練習となる。

ショパンを弾いているのだが、バッハやドビュッシースクリャービンメシアンで学んだことが生きると感じる箇所もある。ショパンだけ弾いていては気づかなかったかもしれない。

ショパン前奏曲集作品28(83)難曲を弾き易くするヒント③24番

Henle社の曲目別難易度では最高難度の9にランクされているこの曲であるが、確かに決して易しくはないものの、最高ランクの9というほどではないと思う。

この曲の難しさ(あくまでもメカニカルな側面において)のポイントは2つ:

①左手の開離和音を正確に弾くこと、もう一つは

②右手の高速パッセージを淀みなく正確に弾くことである。

①については、左手は基本的に最低音を通奏低音とする三声であり、中間の声部を3の指もしくは2の指を軸にして弾くことで解決する。5つの音からなるひとまとまりのパッセージ(2拍分)は、2番目の音と5番目の音の音程がオクターブの場合は3の指を軸に、六度の場合は2の指を軸とする(これでほぼ左手の音型のすべてはカバーされる。ただしいくつか例外箇所あり)ことで安定する。特に最低音は決して外してはならない。

②については、まず決して強くは弾かないこと。強く弾こうとすると力が入り、高速で滑らかに弾くことは決してできないし、音の密度が高いため決して強く弾く必要はない。十分にフォルテになる。

また、32小節目についてはすべて白鍵であることもあり、多くの版の運指を守らず、1234512345・・・と弾くことで手の移動回数を減らし、かなり楽に弾けることがわかる。また、右手に高速パッセージがある小節は、右手につられて左手が速くならないように注意する。曲を通じて左手は厳格にタクトを刻むべきであり、左手と右手の不要な競争になり自分の首を絞めることのないよう留意する。

 

ショパン前奏曲集作品28(82)難曲を弾き易くするヒント②19番

前回の16番に続き今回は19番についてどうすれば弾きやすくなるかのポイントを挙げてみる。

19番の難しさは両手共に開離した分散和音が連続するところにあり、しかも変化が激しいところにある。開離が大きいため、しばしば跳躍を伴う。

この種の曲は、ショパンエチュード作品25の4もそうだが、動きの軸を決めることが第一のポイントである。決して確率論的に反復練習で確率を上げるようなことをする必要は無い。

次のポイントは、この曲を6声と捉え、旋律線を明確に出すことである。これを意識するとしないとでは格段に演奏の安定度が変わる。

場所によってはソプラノでフィンガーペダルを用いることでさらに確実性が増し音楽的にも向上する。

さらに、何より和声の変化を明確に把握することで、和音構成音とそれに伴う手の形が意識できる。

最後に、ゼクエンツ的進行の構造も理解しておく。たとえば29小節から32小節にかけては全音階的に転調していく。

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一方で43小節から44小節にかけては右手は半音階的に下行し左手は全音階的に上行することもしっかりおさえておくと弾きやすくなる。

 

 

ショパン前奏曲集作品28(81)難曲を弾き易くするヒント①16番

作品28は作品10や作品25といった曲集にくらぶれば純粋にメカニカルな難度は高くないとはいえ(音楽的には別)、メカニカルに難度の高い曲がいくつかある。

最たるものは16番、19番、24番の3曲。これらに次ぐのが3番、8番、12番であろう。

今日は作品28の中でも特に高難度の3曲のうち、16番について弾きやすくなるポイントを自分なりに考えたので記してみる。

ショパンベートーヴェンシューマンとは異なり、あくまで自然な手の使い方を基本にしているので、コツをつかめば必ず弾ける(ただし脱力前提)。

まず、右手で奏する十六分音符のパッセージだが、和声外音が多いことが弾きにくい一因であるが、これは正しい運指がまずは第一である。自分が主に参照しているパデレフスキ版のこの曲の運指は良く考えられており、かつ自分の手にも合っているので、9割がた楽譜の指示を採用させていただいている。できるだけ手の位置の移動が少なくすることが確実に安定してレガートで奏する前提となる。

デュナーミクの指示を守ることは実は弾きやすさに通ずる。終始同じ音量で弾くことは単調になり論外だが、実は音楽的に弾くことが弾きやすさにつながるのである。

左手の跳躍も運指を守ること。幸いこの曲は右手に跳躍がないため、同時跳躍を避ける必要がなく、視覚は左手にのみ集中できる。

ショパン前奏曲集作品28(80)エキエル版

ショパンの曲に取り掛かるのであれば、やはりエキエル版(ナショナル・エディション)を参照しない訳にはいかない。

ショパンエチュードであれば、子供の頃に買ってもらった春秋社版(プレリュードとセットになっている世界音楽全集ショパン4である)に加え、コルトー版、エキエル版を保有している。

そこでエキエル版をベーレンライター版と共に購入した。

あと持っていないので気になるのはHenle版だけである。

エキエル版はショパンの祖国ポーランドのナショナルエディションとはいえど、実際には中村洋子先生もご指摘のとおり、細部にショパンの意図を無視したところがあるので注意が必要である(中村洋子先生の指摘はエチュードについてだが)。

ただしエキエル版の良いところはアクセントが画一的な記載ではなく、テヌートアクセントを区別しているところにある。

たとえば18番冒頭。ここは強くということではなく響かせるということ。

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また、注釈が別冊になっているのもアナリーゼを行なう際には実用的である。

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楽譜の体裁としてはしかしエキエルやベーレンライターよりパデレフスキやコルトーが個人的には好きである。エキエルなどは全体に疎なのである。たとえば19番はパデレフスキで3ページのところ、エキエルは4ページ。

ショパン前奏曲集作品28(79)ベーレンライター版

おそらく私の1,000倍(誇張ではない)は音楽を理解している師匠3によると、楽曲の研究に当たっては常に複数の版を参照するのが良く、また一般に出版年月が新しいものほど信頼できる(もちろん例外はある)ということである。

自分はショパン前奏曲集作品28は専らパデレフスキ版で勉強しており(かつては春秋社版だった)、「実用的に」まったく不自由はしていない(パデレフスキ版に違和感のある記載はない)のだが、それでも新しい版が出たからにはチェックしなければと思い購入した。

ちなみに出版されたのは2016年なのでつい最近という訳ではないが、作品28に本格的にとりかかったのはこのつい数か月のことなので。

www.baerenreiter.com

 

内容よりまず目を奪われるのは装丁である。

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ピンク、それもショッキングピンクである。

攻めている。

いやしかしそれは本質的ではない。この版は演奏法に関する解説が充実している。

冒頭には装飾音、フィンガーペダリング、テンポ等に関して適切な助言がなされている。

また、巻末には曲ごとに自筆譜の解釈が詳しく書かれている。たとえば19番では自筆譜におけるペダル指示の不統一をどう解釈するかについて詳細な説明がある。これは大変参考になる。

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