コンサルタント=ピアニストはきょうも語る

現役経営コンサル兼ピアニストが仕事術とピアノと減量と英語と沖縄とかについて語ります

ショパン前奏曲集作品28(29)自筆譜に見る作曲者の想い(2/3)

前回の続き。今回は8,9,10,11,12番。

 

まずは第8番:

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9-10小節かなり書き換えられた跡がある。ここは嬰ヘ短調から変ロ長調に遠隔転調するこの曲で最も印象的かつ自分が最も好きな箇所だけに、このように工夫の跡が自筆譜上でみられることはうれしい。

 

第9番:

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この曲はよく言われているように、ノート・エガルで弾くべきだと言う主張に自分も賛同するし、自筆譜上でもやはり右手の付点四分音符と三連符の最後の音は同時に弾くように記譜されている。

それにしてもこの曲はあまり書き換えらしい書き換えの跡がない。最後から2小節目ぐらいであろうか。

 

第10番:

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この曲もあまり書き換えた痕跡がない。再現部の前の小節ぐらい。

作曲プロセスとは関係ないが、右手は音価を正確に弾いてほしいものである。五連符のように聴こえる演奏があるとがっかりしてしまう。ショパンもはっきり三連符を指示している。

 

第11番:

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この曲も書き換えらしい書き換えはないが、注意したいのは細かいペダリングの指示である。

 

第12番:

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この曲は書き換えが多い。12小節目などゾクゾクする転調があるところはやはり推敲を重ねているのだと思うと、8番同様うれしくなるし、特に大切にしなければいけないと思う。

ショパン前奏曲集作品28(28)自筆譜に見る作曲者の想い(1/3)

作曲者の意図を汲み取るには(版による音の違いをどう解釈するかを含め)、自筆譜にあたるのが最善の方法の一つである。

しかし一つ問題があって、同じ曲の自筆譜にも複数の種類が存在する可能性があることである。

それでも、どれか自筆譜に自らあたってみることは価値がある。

幸いなことに、ショパン前奏曲集作品28の自筆譜(全曲ではないが)がウェブ上で無料で公開されている。

www.chopin-piano.jp

Youtube形式で演奏付きで示されているので、スクリーンキャプチャして自分なりに作曲プロセスを解釈してみた。

1,2,5,6,7,8,9,10,11,12,13,14,15,20,22番の15曲あるので、5曲ずつ考察していこうと思う。今回は1,2,5,6,7番。

 

第1番 ハ長調

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右手の冒頭16分休符が16~18小節で後から黒く塗りつぶされている。この部分はこの曲最大の特徴だが、ショパンが後からこの箇所をstretto的に工夫した跡が見える。

 

第2番 イ短調

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16,17小節目の右手のfの前が黒く塗られている。#を消したのだろうか。この曲はイ短調だが、これまで解説してきたとおり調性が明確になるのはラストであり、それまではホ短調ト長調ロ短調ニ長調と推移する。そのためここまではfはfisに変位させていたのだが、16小節からイ短調に向かうことを明確にしようとしたのだろうか。

 

第5番 ニ長調

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33小節からの3小節の右手が全面的に書き換えられている。前奏曲集のいくつかの曲はあえて再現部を短くして次の曲への推進力を持たせているが、ここでコーダ的な現在の音型に書き換えることでその性格を持たせたように思える。

 

第6番 ロ短調

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16、17小節目の右手が書き換えられており、しかも書き換えた後も右手の変位記号を消しているので、ここは15小節から変えようとした当初の意図がうかがえる。

 

第7番 イ長調

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9小節目の1拍目右手、書き換えているのだが、いったん消してはみたものの結局変えなかったように見える。ここは主題の再現なので、変化をつけるべくgisを入れるかどうか迷ったのだろうか。そう考えるだけでこの再現部を一層大切に弾かなければならない気にさせられる。

ショパン前奏曲集作品28(27)

ピアニスト下田幸二氏は、「聴くために 弾くために ショパン全曲解説」を著している。本棚の片隅にあったものを引っ張り出して前奏曲集作品28の解説を読んだところ、これが短いながらも寸鉄のごとくこの作品の魅力と意義を伝えているのでここに引用する。

 

webshop.yamahamusic.jp

===== 引用始 =====

前奏曲 Preludes

24の前奏曲 作品28

1838 ~39年作曲。1839年出版。カミーユ·プレイエル(フランス版)、ヨゼフ·クリストフ·ケスラー(ドイツ版)にそれぞれ“我が友”という言葉を添えて献呈。

「プレリュードの手稿は送れない。まだ、出来上がっていないんだ。この週間というもの、僕は犬のように病気だった。... 3人のこの島で最も優秀な医者のうち、一人目は吐いた啖の匂いを嗅ぎ、二人目は啖の出るところ、三人目は吐く時に触れて聴診をした。一人目は僕が死んでいると言い、二人目は死にかけていると言い、三人目は死ぬだろうと言った。…」(1838年12月3日ユリアン·フォンタナ宛)

「プレリュードを君に送るよ。...僕は、自分の小さな部屋で生活している。ここには、アラビアの踊り、アフリカの太陽、そして地中海があるのです。…」(1839年1月22日ユリアン·フォンタナ宛)

この対照的な二つの手紙は、どちらもショパンによって、ジョルジュ·サンド一家と滞在中の南欧地中海に浮かぶ島、マヨルカ島で書かれたものである。

この手紙にもあるように、ショパンは24のプレリュード作品28をこのマヨルカ滞在期間中に完成している。作曲開始時期については、1836年、1838年説、果ては、1831年ワルシャワ蜂起失敗の報に、悲嘆にくれて書いた「シユトゥットガルトの手記」の頃と言うのまであって、どれもはっきり否定も肯定もできないが、いずれにしても、1838 ~ 39年にかけて、体調、精神的に非常に不安定な時期に、まとめられ完成していったことは確かである。

この24のプレリュードの調性は、ハ長調イ短調ト長調ホ短調 と、長調とその平行調が5度圏を上がって行き、すべての調を一回りする。これは、ショパンが非常に尊敬の念を持っていたバッハの平均律ハ長調ハ短調嬰ハ長調嬰ハ短調..と同主調が半音階で上がって行く方法とは違い、より曲と曲との関連性に重きを置いている。

一方、各曲のキャラクターを1曲ごとに見ると、難易度も、曲想も、技巧の難易度も、それぞれまちまちである。長さは、小節数で言うと、短い曲ではたった12小節(第9番)、長い曲では90小節(第17番)だ。技巧的には、第12番や第16番のように最高度の技巧が必要なものから、易しい曲(もちろん音楽的には別だが) までそろっている。曲想は、青春の憧れを胸に秘めた曲、あるいは、激情の発露のような曲、かと思えば、死の予感を感じさせるような不吉な曲と、それこそ曲ごとに違っていて、一言では書き切れない…。

しかしながら、この24のプレ/リュードを通して聴くとき、しかしながら、24曲が一つの見事な有機的まとまりを持っていることを、感じないわけにはいかない。

この24のプレリュードを完成したのは、前述の1839年1月、ショパン28歳の時である, 28といえばまだまだ若い年齢だが、早熟だったショパンが、20歳にして言わば亡命者となった当時の状況、婚約までしながら遂げられなかったマリア・ヴォジンスカとの恋、その後のジョルジュ・サンドとのゴシップに満ちた恋愛、そして、少しずつ体を蝕む結核・死の影、結果的には39歳の短い生涯、これらのことを考えれば、28歳のショパンは、年齢よりもずっと多くの人生経験を積み、それを自身の中で消化し、作曲家としても成長してきたと言える。このあたりが、各曲が違ったキャラクターを持ち、さながらショパンの天才性のデパートのようでありながら、全体では見事に有機的なまとまりを見せる名曲を、28歳にして完成させるという、作曲家としての熟成を可能ならしめた背景であろう。

===== 引用了 =====

この後に24曲の個々の解説があり、短いが各曲の聴かせどころのヒントを与えてくれている。

ショパン前奏曲集作品28(26)チュートリアル動画

Youtubeは音源が充実しているのみならず、レッスン動画(チュートリアル)も充実している。

少し前から取り組んでいるスクリャービンエチュード作品42第5などは、あのナウモフ教授のマスタークラスの動画もあったりする(ロシア語、英語字幕)。

ショパン前奏曲集作品28についてもチュートリアルがある。

たとえばこれ。Youtube上で多くの作品のチュートリアルをアップしているPaul Bartonさんによるもの:

www.youtube.com

これは24番だが、ちょっと探してみたところ1番、3番、16番のものもある。

 

次はJosh Wrightさんによるもの。実はJosh WrightのVIP会員になっているので、Youtube上で無料で提供される以外のものも視聴できるのだが、ショパン前奏曲の無料版のものもある。これは6番。他に24番もある:

www.youtube.com

Joshはセルゲイ・ババヤンの弟子でもあり、ババヤンからのヒントなども惜しまず織り交ぜているし、何より教え方がうまい。

 

この他にも英語ではあるが膨大な数のチュートリアルがあるので、試してみられてはいかがだろうか。

 

ショパン前奏曲集作品28(25)あえて抜粋するとしたら...

作品28は全曲で1曲と主張してきているが、コンサートなど公開演奏の場でなかなか40分確保する機会はないので、作品28を弾くとしたら抜粋するしかない。

そこであえて抜粋するとしたらどういう組み合わせがよいか考えてみる。

これまで公開演奏は2回やっている。

① 1回目は1~12番(演奏時間:約15分)。

② 2回目は13~24番(約24分)。

これでもたとえば持ち時間10分の制限がある場合には厳しい。

作品28は12曲×2ともみることができるし、8曲×3とみることもできる。

そこで連続した8曲ずつの抜粋ということも考えると:

③ 1~8番(12分弱)

④ 9~16番(14分半)

⑤ 17~24番(13分半)

というのも十分あり得る。しかしいずれも10分を超える組み合わせである。

10分を切る組合わせでおすすめなのは

⑥ 20~24番(8分弱)

これはスルタノフの残した録音の組み合わせである!

あるいは、6曲×4とみて

⑦ 1~6番(8分強)

⑧ 7~12番(6分半)

⑨ 13~18番(15分)

⑩ 19~24番(9分強)

13番と15番が演奏時間が長いため⑨の組み合わせにするとどうしても長くなってしまうが、他はまあいい組み合わせであろう。

ショパン前奏曲集作品28(24)往年の名ピアニストの演奏

コルトーアルトゥール・ルービンシュタインなど往年の名ピアニストの作品28全曲をあらためて通して聴く。

この曲集を聴くときは必ず全曲通して聴く。

曲想のコントラストや曲間もこの作品の重要不可欠な要素だからである。

彼らの演奏を聴いていると、果たして現在のピアニストの存在意義は何なのだろうと思うことしばしばである。

単にメカニックだけをとっても、現在のピアニストが彼らに優るとも言えない。

それに加え、彼らのアゴーギクや色彩の変化による「香り」というものをあまり現在のピアニストに感じない。とてもクリーンな演奏はあるのだけれども。

人間のピアニストとしての進化は止まってしまったのだろうかと時に思うことがある。

ショパン前奏曲集作品28(23)楽曲分析サイト編

これまでWikipedia英語版を除き、日本語の文献を紹介また研究してきたが、ほぼ主要な日本語情報源はあたったと思われるので、これからは海外(英語に限らず)をあたっていくことにする。

まずはFred Yuという人による全曲の簡潔な譜例付の解説サイト。内容的にはこれまでの投稿で紹介してきた日本語文献でカバーされていると思われる。

Chopin : Complete Music Analysis - Preludes

ただし前奏曲集に限らずショパンの全作品について解説しているのはえらい。

 

次は、よくあるソースだが、学位論文である。この場合は修士論文だが、前奏曲集作品28の構造や和声について検討した結果が述べられている。これから内容は吟味する。

https://digital.library.unt.edu/ark:/67531/metadc663297/m2/1/high_res_d/1002774028-Daniel.pdf

スクリャービンメシアンを研究した際もそうだが、このように海外の音大(実際には日本の音大に相当するものではなく総合大学の音楽学部)の修士論文や博士論文はウェブ上で公開されていることが多いので、この点日本の音大などよりはるかに使える。